第18話 豪華絢爛かつ現実的な夜

「華やかで煌びやかですわね」


「おや、アイリス君。夜会は来慣れているのでは?」


「そんなことはありませんわ、サットン子爵さま。我が家は質実剛健を旨としておりますし。私は肌の色もあって浮いてしまいますので……最低限しか来ていませんわ」

 

「あぁ、そうか。ふふ。でも、私にとってはラッキーだったな」


「えっ? それは、どういう意味……」


「兄さま」


「おや、弟が婚約者を連れて来たようだ」


「えっ?」


 あら、大変。


 ご挨拶しなくては。


「こちらがアイリス・ビアズリー伯爵令嬢さまですね?」


「ああ。アイリス君。コレは私の弟で、マックスだ」


「マックス・サットンと申します。どうぞよろしく」


「こちらこそ。アイリス・ビアズリーと申します。よろしくお願い致します」


「そして。こちらはマックスの婚約者、イザベル嬢」


「えっ? アナタは……」


「お久しぶりです。アイリスさま」


 驚きました。


 サットン子爵の弟の婚約者として目の前にいるのは、セオドア・ウォーカー子爵令息の妹であるイザベル・ウォーカー子爵令嬢だったのです。


「その様子だと知らなかったようだね。マックスはエメリア・ミルズ男爵令嬢の元婚約者なのだよ」


「まぁ」


「マックスとイザベル嬢には気の毒な事をしたけれど。サットン商会とウォーカー商会の縁を繋ぐことで、最悪の事態は避けられる」


「いいえ、気の毒だなんて……私は満足していますわ」


「嬉しいことを言ってくれるね、イザベル。私も満足しているよ」


「あっ……そう言っていただけて……嬉しいですわ」


「……」


 あらあら。


 すっかりラブラブですわね。


「キミの元婚約者殿は気に入らないが……ウォーカー商会も規模が大きいからね。潰れてしまったら、被害が各所に及んでしまう。だから、キミの父上が間に入って下さったのだよ」


「そう……だったのですね……」


 お父さまが暗に匂わせていたのは、この事だったのですね?


 元婚約者であるセオドア・ウォーカー子爵令息には『ざまぁ』したいけれど。


 やり過ぎて、ウォーカー商会が潰れてしまう事になれば、従業員を始め様々な人達に被害が及びます。


 そちらは最低限の被害に留めつつ、元婚約者はとっちめる、と、いうことですわね。多分。


「まぁ、こっちが幸せになる事でも報復はできるからね。その方向性でひとつ、やってやろうじゃないか」


 サットン子爵は私に向かって、ちょっと悪い笑顔を見せた。


「はい」


 その雰囲気。


 嫌いじゃありませんわ。

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