第17話 いざ夜会へ

 夜会当日。


 私はサットン子爵から贈られた青いドレスに身を包んでいます。


 瞳の色と合わせた青地に、髪の色と合わせた金の刺繍をあしらったドレスは、所々に白いレースがあしらわれていて爽やかで品のあるデザイン。


 まるでサットン子爵のようなドレスです。


「私には……似合わないのではないかしら?」


 日焼けしたような色の肌との相性が気になります。


「大丈夫だよ、アイリス」


「そうかしら?」


 お父さまは娘可愛さに正確な判断が出来なくなっているかもしれません。


「そうよ。多少、似合わなくても大丈夫。殿方から贈られたドレスは、似合うことが目的ではないのだから」


「……」


 お母さまは、正確な判断が出来すぎているかもしれません。

 

「ははは。せっかくメイド達が、しっかりお手入れをしてお前を磨いてくれたんだ。自信を持って楽しんでおいで」


「はい、お父さま」


 そうなのです。


 夜会行きが決まってから、メイド達が張り切ってしまって。


 毎日のように私は、パックされたり、マッサージされたりと大変な事になりました。


 今日もメイクやらヘアセットやらで大騒ぎ。


 それはそれで楽しいから良いのですけれどね。


「ふふふ。良いわね。若いって」


「おいおい。キミは十分、若くて素敵なんだから。そんな年寄りみたいな言い方は止めてくれ」


「まぁ、ありがとうございます。アナタ」


「今夜は久しぶりに二人きりだ。こっちはこっちで楽しもう」


「あらあら、ウフフ」


「……」


 娘、まだココにいますけど。


 見えてますかね?



◇◇◇



 外が騒がしくなってきました。


 サットン子爵の到着です。


 やってきた彼を見て、メイド達は溜息を吐く。


 もちろん、私もです。


 今夜のサットン子爵は、とびきり素敵。


 無駄にキラキラと輝く金髪に、澄んだ青い瞳。


 整った顔には笑顔。


 そこにある少しだけの強張り。


 世慣れている切れ者の男性が、私のために緊張している。


 それを感じるだけで自分の内側にさざ波打つような喜びを感じるのは、なぜかしら?


 両親に挨拶するサットン子爵を眺めながら考えてみる。


「緊張しているね、アイリス」


「揶揄わないで下さいまし、お父さま」


 ええ、緊張しています。


 当たり前です。


 楽しく嬉しいのに手が震えていますわ。 


「楽しんでらっしゃい、アイリス」


「はい、お母さま」


「大切な娘だ。よろしく頼むよ」


「はい。お預かりします」


 お父さまの、にこやかだけれど何処かビリッとした緊張を含んだ笑顔に気付いているのか、いないのか。


 サットン子爵は私の手を取ると、スマートにエスコートしてくれました。


 表に出れば、玄関前には白い馬車と、それを引く白い馬。


「まぁ、素敵な馬車」


「ふふ。レンタルだけどね」


 悪戯っぽく笑う、その横顔が素敵。


「妹や弟たちの助言に従ってみたよ。女性は、こういうのが好きなんだって。……どうかな?」


「ええ、好きですわ。大好きです」


 勢いで好き好き言った後に目が合えば、自然に赤らむ互いの頬。


 一瞬の気まずさの後、噴き出して。


 クスクス笑いながら馬車へと乗り込んだ私たちなのでした。 

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