第15話 爆笑するお父さま
「わっはっはっはっ。そう来たかぁ!」
「……」
お父さま?
娘の悩みを聞いて大爆笑とは、どういう事かしら?
勇気を振り絞って今の気持ちを伝えたというのに。
執務室には父の笑い声が響いています。
「いやいや。はははっ。タイラー・サットン子爵殿とお前がくっついてくれたらいいな、とは、思っていたけれど。お前が、タイラー・サットン子爵殿に恋をするとは。いやはや。こんな日が来るとは。はははっ。めでたいな」
「……」
おめでたいのは、お父さまの頭なのでは?
親相手に言う事ではありませんので、ここはグッと言葉を飲み込みますけれど。
ええ。
親相手に言う事では……。
「ふふふ。お前は頭が固すぎるから。同年代の貴族令嬢と比べて、しっかりしているのはいいけれど。幸せを掴むには不安のある性格だと思っていたが。杞憂だったか。相手次第という事だったのだね。まぁ、セオドア・ウォーカー子爵令息と相性が悪すぎたってトコだな。ウォーカー子爵殿はいいヤツなんだが。息子は別の人間だから仕方ないってコトだな。お前が自分の幸せを掴む気になってくれて、私は嬉しいよ」
「お父さま……」
「うん。サットン子爵殿なら異存はないし。お前が案じている事も一つ一つ解消していけるだろう」
「そうでしょうか?」
「ああ。まず、一つ解消しようか」
「何ですの?」
「サットン子爵殿が、お前の事をどう思っているか、だな」
「まぁ。お父さま、意地悪だわ」
「ははっ。そう怒るなよ。これをご覧」
「これは……」
「お前を夜会に誘って良いか、という問い合わせのようだね」
「あっ……」
頬が一気に熱くなるのを感じます。
「ふふ。これをどう受け取るか、は、お前に任せるよ。先方には既に伝えてある。誘われたら、お前が思ったように対応すればいい」
「お父さま……」
「ははっ。今日はコレ以外にも知らせたい事があってな」
「何でしょうか?」
「セオドア・ウォーカー子爵令息のことだ」
「んん……」
正直、あまり興味がありませんわ。
セオドア・ウォーカー子爵令息って、どなたでしたっけ?
「アイツ、ついに勘当されるらしいぞ」
「えっ?」
「婚約破棄によってビアズリー伯爵家という後ろ盾をなくしたウォーカー商会は、商売がだいぶ傾いてきたらしい」
「まぁ」
「それなのに、原因を作ったセオドア・ウォーカー子爵令息が好き勝手しているらしくてね。アイツ、伯爵位だけでなく侯爵位も自分が継ぐ前提で生きてるようだ」
「あ――……」
なんとなく分かりますわ。
あの人は、そう言う人だわ。
うん。
「お相手の令嬢も、同じらしくてな。お前との結婚が無くなった時点で、伯爵位も侯爵位も継げないどころか子爵位も継げないのだがな。本気で分かってなかったらしい」
「そう……ですのね」
「ウォーカー子爵殿はいいヤツなんだがなぁ。息子があそこまで頭が悪いとなると、困ったことになるよな」
「そうですわね」
今となっては関係のない事ではありますけれど。
「ウォーカー商会は助けたいのだがね」
「そう……ですか」
私としては微妙な所ではありますが。
お父さまがそうされたいのであれば、そうなされば良いと思いますわ。
「可愛い娘をないがしろにした男の末路を見て『ざまぁ』と、高笑いして良い気分になりたい所ではあるが。世の中、それだけでは成り立たないからね。まぁ、すぐに助けるつもりはないけれど。いずれは助ける事になるかもしれない。それは承知しておいておくれ」
「はい」
「アチラさんには、しばらくは自分達が逃したチャンスを後悔して貰うけど。コッチは勝手に幸せを掴もうじゃないか。さぁ、アイリス。自分が欲しい幸せを手に入れてご覧」
「はい、お父さま」
本当に自分が欲しい幸せを手に入れられるかは分かりませんが。
私、頑張ってみますわ。
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