第6話 仕事に生きるわ 生きるために(切実)5

 机の上にあるメモ書きを見て、サットン子爵は美しい眉をひそめました。


「これはキミが?」


「はい。本日は在庫のチェックをいたしましたの。足りなくなりそうな商品を書き出しておきました」


「在庫管理は別の者の仕事では?」


「はい。そうですけれど、今日は忙しそうでしたので私の方で済ませましたの。帳簿と合っているかを確認しただけなので手間もたいしたことはありませんでした。もちろん、在庫管理の方には許可を頂きましたわ」


「ああ、そう言えば今日は……配達の者が何人か休みだったな」


「ええ。毎週水曜日に休まれる方も多い上に、体調不良の方が何人か出てしまったので……」


「それは大変だったね。臨機応変に対応してくれてありがとう」


「お役に立てたのなら嬉しいですわ」


「でも、取り扱い点数が多いから大変だっただろう?」


「いえいえ。前に働いていたウォーカー商会は主に食品を扱っていましたので、もっと種類が多かったのです。季節によって扱うモノが違ったり、スパイスなど輸入品など身近ではないモノだったりで、慣れて覚えるのが大変でしたけれど。こちらは文房具や雑貨が主な商品ですから、そうでもありませんわ」


「そうなんだ」


 話し始めた時には不快そうに歪んでいたサットン子爵の眉も、いつしか柔らかな弧を描き。


 なにやら機嫌よさげな表情になっていました。


 そうなるとサットン子爵の顔の良さが目立ってきます。


 私は頬が熱くなってくるのを感じました。


 貴族とは、どうしてこうも無駄に顔が良いのでしょうか?


 まぁ、私も貴族なのですけどね。

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