第8話 仕事に生きるわ 生きるために(切実)7

「アイリス君。この紐は、キミのモノかな?」


「はい、そうです。サットン子爵さま。書類を綴る紐が見当たらなかったので、とりあえず手持ちのモノを使いましたの」


「ほう。なかなか素敵な紐だね?」


「そうですか? ありがとうございます。その紐は、母の手ほどきで私が作ったモノです」


「おや、手作りなのかい? 上手に作るね」


「いえいえ。私の作るモノなど、たいしたことはありません。母の作るモノは素晴らしいのですけれど……簡単なモノしか私には作れませんので。ウォーカー商会に居た時には包装に使うために、空き時間に作っていましたわ。」


「ほう? 商品だったんだね」


「そんな商品だなんて大袈裟ですわ。簡単に作れるモノですもの。空き時間に作ったモノを、お菓子などを入れる巾着袋に使っていました」


「ふぅん。コレは単体でも売れそうだけどな?」


「ふふ。お客さまには喜んで頂けていたようですけど。私の作ったモノなどはまだまだで……」


「いやいや、十分だよ。そう言えばキミの母君は、国外の方だったね?」


「はい。我が国へ亡命してきた王族のひとりです。いまは無くなってしまった国ですけれど……そこの伝統文化だったそうですわ」


「ああ……文化継承の一環か」


「ええ。小さな国だったそうですから、伝統文化を継承するのも王族の役割だったと聞いてますわ」


「そうか……と、言う事は。コレを作っている所は無いんだね?」


「おそらくですが。何処も作ってはいないと思います」


「ふぅ~ん。そうか。……コレは作り方に種類があるのかな?」


「はい。私は出来ませんが、母が作るモノは……」


 サットン子爵は私の説明を真剣に聞いて下さいました。


 私はと言えば、こんな事を話して何になるのかしら? と、疑問でしたが。


 まさか、この後にあのような展開が待っているとは。


 夢にも思いませんでしたわ。

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