第9話 仕事に生きるわ 生きるために(切実)8
休日の午後。
母から頼まれた用事を済ませて自宅に戻ると、なぜか我が家の応接間にサットン子爵がいらっしゃいました。
思わず、二度見です。
目をパチクリさせて見ましたが消えませんので、恐らく実物でしょう。
ニコニコしている両親の前、テーブルを挟んだ先に、穏やかな表情を浮かべたサットン子爵が座っています。
「……ご機嫌麗しゅう、サットン子爵さま。いらしていたのですね」
「ああ。ごきげんよう、アイリス。お邪魔しているよ」
「お帰りなさい、アイリス。用事は済んだのかしら?」
「はい。ただいま戻りました、お母さま」
「ご苦労さん、アイリス。お前も、ここに座りなさい」
「はい、お父さま」
なぜ長椅子に?
なぜサットン子爵の隣に?
と、思いつつ長椅子に座る私。
視線をテーブルに下ろせば、そこには色とりどりの紐が広げられていました。
「キミのお母さまが作ったものを見せて頂いていたんだ」
「そう……なのですね?」
なぜ?
「噂には聞いておりましたが、本当に美しいモノをお作りになるのですね、ビアズリー伯爵夫人さま」
「ふふ。私のことは、どうぞロベリアとお呼びになって」
「では、遠慮なく呼ばせて頂きます。ロベリアさま」
「……」
あらあら。
私がいない間に随分と仲良くなったようで。
「私にはよく分かりませんが、本当に商品として通用すると思われますか?」
「はい。私はそう考えています。ビアズリー伯爵さま」
「でも、商品として流通させるには量も必要でしょ? 私一人では、たいした数は作れないわ」
「それは心配ありません、ロベリアさま。そのような芸術品のような品物でなくても、商品になりますので」
「と、いうと?」
「ビアズリー伯爵さま。お嬢さんが作られるような簡単な物であっても、十分に商品として通用しますよ」
「まぁ、そうなのね? この子が作ったものでも……」
「……」
お母さま?
私の作った物に対する真の評価が、今の一言で分かりましたわ。
「あのくらいであれば、領の者たちでも作れそうだな?」
「そうね、アナタ。少し指導すれば、もう少しマシな物も量産できるのではないかしら?」
「……」
ああ、お母さま。
娘への秘した評価がダダ洩れでございますわ……。
「でしたら、サンプルとして幾つか作って頂いて……」
「それなら、前回、領でお教室を開いた時のお礼に頂いた物があるので。それをまずは見て頂いたらいいかもしれないわね。アグネス。ちょっと取ってきてくれるかしら?」
「はい、奥さま」
お母さまが素早く侍女に指示を出しましたわ。
おっとりして見える元王族とはいえ、それなりに苦労していますのでチャンスは逃さないタイプなのです。
毎度のことながら勉強になります。
こうして世間話でもするように商談は進んでいきました。
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