───コンビニの仕事を辞めてからも、夜のドライブが私たちのデートの定番になっている。


 後部座席で背中を丸め、なるべく顔を伏せて座る。



 煌びやかな大都会のライトを、スモークガラスの内側から横目でぼんやりと眺める。



「……んで、今日撮影んとき司がさ?」


 運転席から聴こえる心地良い声に耳を傾けて。


 斜め後ろから見る……大好きな人の、後ろ姿。


 これって……現実……?


 未だに夢か幻かと目を擦る瞬間がある。



 高速に乗り、遠ざかる都会の灯りを後ろの窓から覗く。


 景色に緑が増えていく毎に少しずつ顔を上げる私。



「……芙由?……おいで?」


 隣県のパーキングエリア。


 一番隅……街灯も人気もない位置に停められた車。



「……ありがと」


 光くんが差し出してくれた手を取り、ゆっくりと車を降りる。


 誰もいないと分かりつつも、やっぱり少し……キョロキョロしてしまって。



「コーヒー買ってくるから。助手席乗ってて」

「うん、ありがと」


 私には似つかわしくない高級車の助手席に座る。



「──よし、こっからドライブスタートね」



 コーヒーを一つ私に手渡して、運転席に座る。


 走り出して少し経つと、自然な動きで空いている方の手を繋いでくれる。

 彼の好きな音楽を聴きながら再び県を跨いで高速を走り、インターを降りた。


 ここまで来れば、やっと私のソワソワした心も落ち着いてくる。


「芙由……?」

「ん?」

「……っ、」


 信号待ちで名前を呼ばれ隣を向けば、不意打ちのキス。



「いま油断してたっしょ?笑」


 少し走ると、また信号待ち…───


「芙由……?」

「………」

「ねぇ、こっち向いて?」


 今度は分かっていて、隣を向く。


「──…っ、」


 さっきよりも、長くて甘いキス。


「……あ、照れてる。笑」

「もぉ……揶揄わないでよ」



 目的地に到着。潮風が香る……静かな砂浜。


「……う……さっぶ……」

「……けっこう冷えるね」


 光くんの太い腕が、私の腰を横からギュッと包んでくれる。


「……もう…冬だな……」


 まじでさみーな……、って掠れた声。


「寒いけど私……冬好きだなぁ」

「……ん?なんで?」

「光くんの特別になれた季節だから」



 天を見上げると……

 澄んだ夜に、キラキラ輝く綺麗な星。


 視線を下げると……

 いつものキラキラを封印して、たった一人の人間として隣にいてくれる大好きな横顔。



「……俺も冬好き」

「え?」

「……大好きな人の名前と、同じ季節だから」

「……ふふっ」


 世間には、堂々と話せない関係だけれど。


 それでも良いから、ずっとそばにいたいと……

 そう、思っていたのに…────

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