第2章:推しと恋?!




────それからまた1ヶ月…


 結局、光くんはあれから毎日メッセージをくれるようになった。


『今から仕事ー』

『いってらっしゃい』


『疲れたー眠いー』

『お疲れ様』


 相変わらず私はなんと返信したら良いのか分からず、そっけない短い返信をするだけだったけれど。


 プライベートの光くんと繋がっていられることが嬉しくて……でもやっぱり、未だに夢みたいな気分で。



「芙由さーん」

「え、光くん?!」

「撮影巻いたから来ちゃった。笑」


 光くんは週に1回程度、時間を見つけては私の働くコンビニへと会いに来てくれた。


 その度に誰か他の人が来ないかと冷や冷やしたけれど、夜勤の時間帯なのが幸いして、誰かに見られるようなこともなかった。


「……ねぇ、芙由さんってさ、オムライス作れる?」

「え……?あ………うん、作れるけど……?」


 そうだよね~、光くんオムライス好きだもんね♡って、心の中でヲタク心が騒いでいると…──



「じゃあさ、今度うちに作りに来てよ!」

「……ふあぇ?!」


 突然のお誘いに、またもやパニック!

 変な声が出ちゃって、恥ずかしい……。


 いやいや……光くんの自宅に?!……この私が?!


「………ダメ?いいでしょ?」

「え………いや……んー……、」


 いいのだろうか…………いや、良くないよね?

 ファンが光くんの自宅に出入りしてるなんて、万が一週刊誌にバレたりしたら……ものすごく大変なことになるよね……?


 急に冷静になる私。というか、今のこの状況でさえ、もしも誰かに見られたりしたら……きっと光くんは大変なことになるはず。


「………それは……やめとこっかな」


 自分でもビックリするくらい、私の頭の中は冷静になってきていて。そう答えていた。


「え………なんで?」

「だって、私みたいな1ファンが光くんの家なんて。おこがましいにも程があるよ」


 不思議そうな目から、寂しげな目に変わる光くん。


 あえて見ないようにして、私は続ける。



「……ほら、ここで話してるのとかもやっぱりまずいんじゃないかな?深夜帯も人が来ないってわけでもないし、もし誰かに見られたりしたら、大変なことになっちゃうよ……?だからもう……帰った方が……」


 言いかけて、ハッとした。光くんの表情から、完全に落胆してる様子が垣間見える。ひどいこと言っちゃったかな……せっかく会いに来てくれたのに……。


 光くんは通りの向こう側をぼーっと見つめたまま、静かに口を開いた。



「芙由さんさ?」

「……ん?」

「いつんなったら俺のこと『アイドル』じゃなくて『一人の人間』として見てくれんの?」


 ゆっくりと視線をこちらに戻した光くん。

 その瞳はあまりに哀しそうで、胸がツキンと傷む。



「前、手紙に書いてくれてたじゃん。光くんも一人の人間なんだから、人としていつか幸せになってほしいって」

「…………うん…」

「俺あれ……すっげー嬉しかったのに………」



 光くんは、すぅっと立ち上がる。


「言ってることとやってること、全然ちげーじゃん」


 ボソッと小さな声で吐き捨てるようにそう言うと、車の方へと歩き出す。


「今日は帰るね。お疲れ様」


 大好きなアイドルの後ろ姿を、私はただただ呆然と見送るしかなかった。


「………光くんの言う通りだ…」


 私はいつから光くんを“アイドル”という枠に縛り付けてしまってたんだろう?テレビや雑誌の中の光くんを見ていた頃は『一人の人として』なんてことまで、考えてあげられてたのに。


 分かってる。……分かってるよ。これは私の中での予防線。光くんはアイドルなんだからって、自分に言い聞かせてるの。

 本気で恋愛感情を持ってしまわないように……。



 でも……このままもう二度と会えないかもしれないな。むしろその方が、彼のためにはきっと良いよね。


 終業後、スマホを取り出すと……最後のつもりで、私は光くんにメッセージを送った。


『嫌な気持ちにさせてしまってごめんなさい』

『これからもずっと応援してます』





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