第3話 きっかけ

小さな子供は、他所の家庭を知らない。


今、自分が置かれている現実と目の前で起こる出来事だけしか見た事がないから、知らないのが当たり前。


彼らは、弟だけを溺愛した。

優しく抱き上げて話しかけ、いつも笑顔を見せる。


私と妹も、彼らにそれを求めただけ。

優しく抱きしめて欲しかった。

話しかけて欲しかった。

笑いかけて欲しかった。

同じ食卓で、母親の作ったご飯が食べたかった。

休日には、一緒に車に乗ってお出かけしたかった。


でもそれは、弟が産まれてから私の知る限りでは一度もしてもらえなかった。


それでもまだ、彼らや弟とは離れた部屋ではあるけれど食事だけは与えて貰っていた。




私が6歳位の時に、今までの状況が更に悪化する出来事が起こった。



その日は、弟の2歳の誕生日。


彼らは朝からご機嫌でとても楽しそうに笑っていた。


私と妹は、彼らから誕生日を祝ってもらったことも、プレゼントを貰ったこともない。けれども保育園ではお誕生日会というものがあり、保育園の先生やお友達が『 おめでとう 』の言葉と一緒にプレゼントをくれた。



6歳の私と4歳の妹は、弟に何かプレゼントを渡そうと考えた。


彼らは弟の誕生日は、とても嬉しそうで楽しそうだったしプレゼントを渡したらきっと喜んでくれるはず......。


私は妹と、少し遠くの公園に行くことにした。その公園には白や黄色やピンクのキレイなお花があったから。


そのお花をプレゼントしたら、弟はもちろん、彼らもきっと『 ありがとう 』と言って笑ってくれる。そんな淡い期待だった。


私と妹は公園でお花を摘んで、夕方過ぎに帰宅した。


帰宅すると弟はベビーチェアに座っていて、父親の姿はなく、母親はキッキンで料理をしているようだった。



『 ママ?ただいま! 』


私と妹はそう声をかけたが、母親は一瞬チラっとこちらを見ただけで返事はなく、またキッキンで料理をしている。


それはもう、私や妹にとっては当たり前の事だったし、いつもと何も変わらない日常だった。


公園から帰った私と妹は手を洗い、プレゼントのお花を持って弟のベビーチェアの横に行き、摘んできたお花を弟に手渡した。



『 お誕生日おめでとう!』


2歳の弟はまだそんなに言葉をたくさんは話さなかったけれど、にっこり笑顔でそのお花を手に取ってくれた。


私と妹はそれを見ると、少し離れた公園に行った疲れもあったのか、隣の部屋で眠ってしまった。




どれくらい眠ったのかはわからなかったが、私は彼らの怒鳴り声と、妹の尋常ではない泣き叫ぶ声で目を覚ました。


びっくりして隣の部屋へ行った私を見つけた彼らは、私の髪の毛を掴み私をリビングの床に叩きつけて怒鳴った。



『 お前らなんて事してくれるんだ!!こんな汚い花なんか〇〇(弟の名前)に持たせて!!』



妹は私同様、リビングの床に叩きつけられたのか激しく泣き叫んでいる。



『 今日は〇〇のお誕生日だからプレゼント.........』


そう答えている最中、私の言葉を遮るように父親が再び私の髪の毛を掴み持ち上げて床に叩きつける。



『 ふざけんな!!こんなもん〇〇が口に入れたりしたらどうすんだよ!!』



ハッとして弟の方に目を向けると、すでに花は手に持っておらず、母親によってゴミ箱に捨てられた後だった。



床に転がった私と妹を、鬼のような形相をした彼らが何度も蹴飛ばす。



恐怖と痛みで私と妹は泣き叫ぶ。



『 ごめんなさい!!パパ!ママ!』



何度謝ったのか覚えていない。でもとにかく謝らなければ...私も妹もそんな気持ちだったんだと思う。



何度謝っても、許してもらうことはなく最後はもうごめんなさいの言葉も出てこない。



繰り返し襲ってくる身体中の痛みと、怒鳴り声、私と妹の泣き叫ぶ声だけが聞こえていた。





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