第11話 守るべきもの
マサトに家の前まで送ってもらうと、私は車から降りた。
『 まい?大丈夫か?すぐ戻って来てもいいからな? 』
心配そうに私の目を覗き込んで言うマサトを、私は精一杯の笑顔で見送る。
本当は大丈夫なんかじゃない。
でも、1人残してきた妹の事を考えると私だけ逃げ出すなんて出来ないのだ。
『 ただいま… 』
私は意を決して、恐る恐る玄関の扉を開ける。
リビングの奥から出てきた彼らは、私の胸ぐらを掴むと勢いよく玄関の床に叩きつける。
立ち上がると今度は、背中や足に蹴りが入る。
殴る蹴るを繰り返し、私が立てなくなるとやっと少し気が済んだらしく、起き上がれずに蹲っている私に冷たく言った。
『 なんだ…お前、帰ってきたの!?てっきりどっかで野垂れ死んでるかと思ったのに!! 』
帰った瞬間にこうなる(殴る蹴る罵倒される)であろうことは、わかっていたので予想通り。
ある程度は覚悟もしていたから、こんな事ぐらいでは別に驚きもしない。
私は、泣かないし、口答えもしない。
ただ、殴られているこの時間が、一刻も早く過ぎて欲しかった。
彼らがリビングの奥に戻っていくのを見て、私はヨロヨロと立ち上がり、妹のいる奥の部屋へ行く。
部屋のドアを開けると、部屋の隅の方にぼんやり座っている妹の姿が目に入る。
妹はドアの開いた音に気づくとゆっくり顔をこちらに向けた。
『 お姉ちゃん…。大丈夫…? 』
消え入りそうなほど小さな声で私にそう尋ねると、妹の目から涙が溢れてポタポタと流れ落ちる。
私は妹の隣へ行き、小さな妹を抱きしめて言った。
『 大丈夫だよ。お姉ちゃんは大丈夫。怖かったよね?お腹すいてるよね?1人にしてごめんね…。 』
玄関に入る前、郵便受けの中にこっそり隠しておいた、帰り際に美月さんが持たせてくれたおにぎりを妹に手渡す。
『 これ、本当に食べてもいいの…?』
私が何度も頷くと
『 お姉ちゃん…これ、すごく美味しい…! 』
妹は嬉しそうにそう言うと、3個のうちの1個をあっという間に食べ終える。
そして2個目のおにぎりを半分にすると私にそっと手渡した。
『 はい、これともう1個はお姉ちゃんの分だよ? 』
『 ううん、3個全部食べて良いんだよ?お腹すいてるでしょう? 』
『 だめだよ…!お姉ちゃんの分なくなっちゃう…… 』
その瞬間、まるで私の心臓が握り潰されるかのような痛みを感じた。
罪悪感…。
それは私が今まで感じた事のないような痛みだった。
そうだよね…。
ずっとずっと私と妹は少ない食事を分け合ってきたんだよね…。
そうやってお互いに、痛みや苦しみや悲しみや空腹を分け合ってきたんだよね…。
それなのに私は、私より弱く小さな妹を1人だけこの家に残してしまった。
自分だけ7日間も…お腹いっぱいになるまで食べて、暖かい布団で眠っていたのだ。
美月さんの手作りの食事や、マサトの優しさに甘え、このまま帰りたくない…と思ってしまった自分が情けなくて許せなかった。
この子は私が守らなければならない。
私の唯一の妹なのだ。
私の守るべきものは私ではなく妹だったのに……。
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