第12話 愚行の言い訳
色々なことがわかりはじめると、今まで通りなんかじゃ、生き続けていけない。
元いた場所になんか、もう2度と戻れない。
13歳の誕生日の夜に崩壊した私の心は、彼ら(両親)から与えられる恐怖や痛みを全く感じなくなった。
人間は、恐怖心や苦痛というものを感じなくなると何でも出来るようになる。
この場合の”何でも出来る”というのは、肯定的な意味ではない。
”怖さや痛みを感じないから、悪いことであってもなんでも平気で出来る(出来てしまう)”という意味。
人間が転落していく速度なんて、本当にあっという間なんだと知った。
ひとつひとつ積み上げて、昇っていくのは時間がかかるのだけれど……1度踏み外してしまったら、そこから転げ落ちるのはとても速い。
そしてなぜか転落していく時に…そこに【最もらしい理由】をつけたがる。
他者への言い訳をする為に?
それとも自分自身への言い訳をする為に?
当時の私の場合は、そのどちらもだったから1番タチが悪かったのだと思う…。
彼らからの暴力を恐れなくなった私は、それから頻繁に家出をして、マサトと会うようになっていった。
マサトに会える日は、マサトの車で遊びに行き、美月さんに手作りのご飯を食べさせてもらう。
帰りに、美月さんが作って持たせてくれるおにぎりやサンドイッチやお菓子などを妹にお土産として持ち帰った。
マサトが仕事で会えない日は、1人で適当に街中をブラブラしていた。
昼夜を問わず街中をブラブラしていると、不思議と同じような境遇の仲間が出来る。
その仲間の家に遊びに行ったり、仲間の先輩と知り合いになったりしてまた新しい仲間が出来る。
マサトや美月さんは勿論、新しくできたその仲間と一緒にいる時間が私はとても楽しかった。
閉鎖されたあの家から外へ出た私は、外の世界がこんなにも自由なのだと知った。
外に出れば、スーパーやコンビニやデパート…たくさんお店がある。
そこには食べ物や飲み物、衣料品や雑貨、私の欲しいものがたくさん溢れていた。
マサトといる時こそはしなかったが、仲間と一緒にいる時は…そこから食べ物や飲み物やお菓子や衣料品、ゲームや本などを調達した。
私は当時まだ13歳だし、仲間や先輩もマサトより歳下だったから働いてはいない。
”調達した”といってもお金は持ってないので正規にレジで精算はしていない。
要するに”万引き”をして食べたり飲んだりして…挙げ句に盗んだものを妹のお土産として持ち帰ったりしていたのだ。
マサトの家から帰った私は、【大切な妹を守るため】などという【最もらしい理由】をつけては、どんどん転落し、落ちていった。
これはまさに愚行の言い訳。
人の物を盗んではいけません
弱い人を傷つけてはいけません
悪いことをしてはいけません
確か、学校の先生がそんなこと言ってなかったっけ…??
そんな事も一瞬脳裏を過ったけれど、そんなものは、はっきり言って理想論。
だって誰も助けてはくれなかったでしょう?
私や、私より幼い妹に誰もお腹いっぱいご飯くれなかったでしょう?
あのまま家の中にじっとしていたら誰かが気付いてくれたのかな?
幼い頃、私は虚像の神様に必死で祈った。
けれどもそれは、そもそも期待したからこその失敗だった。
自分の心が壊れた時
自分の心が境界線を超えた時
失望と希望とが、ものすごいスピードで戦い合っている。
そして絶望と欲望とが、交互にやってきては私を混乱させるのだ。
人の物を盗むことへの罪悪感が全くなかった訳ではない。
ただ、その罪悪感も【大切な妹を守れるのは私だけ】という【最もらしい理由】をつけることにより自分自身の中で肯定しようとしていたのだろう。
そんな毎日をなんとなく過ごしながら…私が14歳になった頃、マサトと私は付き合うことになる。
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