第14話 終わりへの始まり
20歳のマサトはパチンコ店で仕事をしていた。
私はというと昼間ほとんど学校へは行かず…仲間と一緒に遊び、喧嘩・盗み・恐喝を繰り返す日々。
警察に補導される度に、マサトや美月さんに迎えに来てもらう。
マサトと付き合いだしてからの私は、妹に食べ物や飲み物を渡しに行く以外で家に帰ることはほとんどしなくなった。
愚行を繰り返す私の行動と比例するかのように、彼ら(両親)の私と妹に対する身体的暴力や暴言はだんだんと少なくなっていった。
身体的暴力や暴言が減ったからといって彼らからの”虐待”が完全に終わったわけではない。
ただ主だった身体的暴力や暴言から”ネグレクト(育児放棄)”に移行したというだけのこと。
それでも…私にとってそれは、とても大きな救いのように感じられた。
ほとんど家に帰らない私のことはともかく…学校以外で外に出られない妹に対しての暴力や暴言がなくなれば、私は妹の食料調達だけをすれば良くなったのだから。
今思えばこの頃の私は…まだ色んなところが幼稚だったのだろう。
いったいこの世にはどれだけの善意とどれだけの悪意が折り重なり交錯しているのだろう?
【妹を守るため・大切な人のため】だなんて他者や自分の心に言い訳をしながら…胸を張って全てを悟ったフリをして愚行を繰り返す。
まさに恐ろしいほど盲目としかいえない私だっだ。
それがマサトと私の終わりへの始まりだったことにも気づかずに…。
マサトはよく私にこう言っていた。
俺以外には見せないけれど泣いているんだよね…いつも心は。
まいは強がるけれど…強がるほどその裏には弱さが見えるよ。
まいは周りに牙を剥くけれど…牙を剥くほどその裏には痛みが見えるよ。
そんな風に泣いてるみたいに…消えてしまいそうに笑わないで?
まいのこれまでを俺には聞かせて?
まいのこれからを俺には話して?
怖がらなくていい…ちゃんとわかっているからさ。
ありのままでいい…全部受け止めていくからさ。
俺にはちゃんと泣いたり叫んだりして伝えてよ…まいの気持ち。
まいのそばにはいつも俺がいる。
だからもう1人で孤独を感じないで?
もう1人で不安にならないで?
幼すぎた当時の私には…マサトがいうこの言葉の真の意味を理解することが出来なかった。
今の私だったら…きっとそれを理解する事ができたのにね…。
マサトが私によく言っていた言葉は、本当はマサト自身が私に言って欲しかった言葉。
マサトが私にぶつけてくれた気持ちは、本当はマサト自身が私にぶつけて欲しかった気持ちだったんだよね。
もうこれ以上悲しまないで?
もうこれ以上傷つかないで?
もう1人で孤独を感じないで?
もう1人で不安にならないで?
私はいつでもあなたのそばにいるよ?
今の私ならきっとこう言ってマサトを抱き締めてあげられたのに…。
私とマサトは、本当はとてもよく似ていたんだ。
まるで笑うように、涙を流して…まるで泣くように、笑う私達だったよね。
私が16歳になった年の冬に、私とマサトはサヨナラをした。
2年と3ヶ月…ずっとそばにいて、同じ場所から同じ景色を見ていたはずなのに…いつの間にか私とマサトを遠ざけたのはいったい何だったのかな?
私の記憶の中に残るマサトは、いつからそんな悲しい横顔になっていったんだろう。
甘い夢をいつも見させてくれた。
甘い夢の中で私達は生き続けていた。
ずっと隣にいて永遠に離れることなんてないと信じていた。
深くて切ない夜…マサトの腕の中に優しく包まれて眠ることがただ幸せだった。
いくつもの物語を織りなすように…叶わない未来のために紡ぎ続けていた。
永遠を信じていたから…遠回りや回り道、些細な誤解なんかは置き去りにした。
そんな些細なことなんか、やがて訪れる未来にとりもどすつもりでいた。
全ての過ぎゆく過去に理由があるのならば…もう2度と逢えなくなるのに、なぜ出逢ったのだろう。
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