第14話 終わりへの始まり
19歳のマサトはパチンコ店で仕事をしていた。
私はというと、ほとんど家にも帰らず学校へも行かず…知り合った仲間と一緒に遊び、喧嘩・盗みなどを繰り返す日々。
警察に補導される度に、マサトや美月さんに迎えに来てもらう。
マサトと付き合いだしてからの私は、妹に食べ物や飲み物を渡しに行く以外で家に帰ることはほとんどしなくなった。
愚行を繰り返す私の行動と比例するかのように、彼ら(両親)の私と妹に対する身体的暴力が、ほんの少しだけ少なくなったように感じた。
身体的暴力や暴言が減ったからといって彼らからの”虐待”が完全に終わったわけではない。
ただ主だった身体的暴力や暴言から”ネグレクト(育児放棄)”に移行したというだけのこと。
それでも…私にとってそれは、とても大きな救いのように感じられた。
ほとんど家に帰らない私のことはともかく…学校以外で外に出られない妹に対しての暴力や暴言が少なくなれば、私は妹の食料調達だけをすれば良くなったのだから。
今思えばこの頃の私は…まだ色んなところが幼稚だったのだろう。
いったいこの世には、善意と悪意というもがどれだけ折り重なり交錯しているのだろう?
【妹を守るため・大切な人のため】などと他者や自分の心に都合のいい言い訳をしながら…愚行を繰り返す日々。
それはもう、ただ盲目で愚かだった…としかいえない。
それが、マサトと私の終わりへの始まりだったということにも気づかずにいたのだから…。
マサトはよく私にこう言っていた。
俺以外には見せないけれど…ホントは心が泣いているよね。
まいは強がるけれど…強がれば強がるほどホントは弱いよね。
周りに自分には近寄らないでってオーラを出すけど…そうやって遠ざけようとすればするほどホントは痛いよね。
お願いだから…そうやって今にも消えてしまいそうな悲しい目をしないで?
まいが1人で感じてきた今までの闇を、俺にも聞かせて?
まいのこれから先の夢や希望を、俺にも話して?
もう何も怖がらなくていい…何かに怯えなくていい…ちゃんとわかってるからさ。
今のまいのありのままでいい…それは俺が全部受け止めていくからさ。
俺にはちゃんと泣いたり怒ったり叫んだりして伝えてよ…まいの本当の気持ち。
まいのそばにはいつも俺がいる。
もう1人で孤独だって感じないで?
もう1人で不安とかにならないで?
幼すぎた当時の私には…マサトがいうこの言葉の真の意味を理解することが出来なかった。
今の私だったら…きっとそれを理解する事ができたのにね…。
マサトが私によく言っていた言葉は、本当はマサト自身が私に言って欲しかった言葉。
マサトが私にぶつけてくれた気持ちは、本当はマサト自身が私にぶつけて欲しかった気持ちだったんだよね。
もうこれ以上悲しまないで?
もうこれ以上傷つかないで?
もう1人で孤独を感じないで?
もう1人で不安にならないで?
私はいつでもあなたのそばにいるよ?
今の私ならきっとこう言ってマサトを抱き締めてあげられたのに…。
私とマサトは、本当はとてもよく似ていたんだ。
私が16歳になった年の冬に、私とマサトはサヨナラをした。
2年と3ヶ月…ずっとそばにいて、同じ場所から同じ景色を見ていたはずなのに…いつの間にか私とマサトを遠ざけたのはいったい何だったのかな?
私の記憶の中に残るマサトは、いつからそんな悲しい横顔になっていったんだろう。
甘い夢をいつも見させてくれた。
甘い夢の中で私達は生き続けていた。
ずっと隣にいて永遠に離れることなんてないと信じていた。
不安な夜は…マサトの腕の中に優しく包まれて眠ることがただ幸せだった。
いくつもの物語を織りなすように…叶わない未来のために紡ぎ続けていた。
永遠を信じていたから…遠回りや回り道、些細な誤解なんかは置き去りにした。
そんな些細なことなんか、やがて訪れる未来にとりもどすつもりでいた。
全ての過ぎゆく過去に理由があるのならば…もう2度と逢えなくなるのに、なぜ出逢ったのだろう。
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