第18話 大きな誤算
マサトと別れて11ヶ月後。
東日本大震災で、大切な友達と先輩を亡くして8ヶ月後。
私は17歳になった。
正直…その8ヶ月間の記憶は、ほとんどない。
いったい私は、その間何を思い何をしていたんだろう…?
そんなことを思い返してみる…。
時々家に帰っても、私と妹に対するあの人達からの扱いは相変わらずだった。
相変わらずどころか、育児放棄はもう基本で、暴力に関しては私や妹が大きくなるに連れ、増々エスカレートしていた。
中学校での内申点というものは、おそらく最悪だったであろう私だけど、マサトと付き合っていた時期だったということもあり、他の目的(※後述)もあり、高校へは進学を希望していた。
因果なもので、中学生の頃は学校に行き給食を食べないと私も妹もまともな食事がなかった環境だったので…内申点は悪くても、ある程度少し勉強は出来ていたから高校受験には困らなかった。
世間体だけは気にするあの人達にとっても、虐待や育児放棄が世間にバレることは不本意だったのかも知れない。
私が高校を受験することに対しては、それこそ何の興味もなかっただろうし、何も言われることはなかった。
ただ…受験していざ入学したのはいいものの、高校生になると給食というものがない。
学校へは給食を食べるために通っていた私にとって、それはかなり大きな誤算だった。
給食がないということは、1日の食事が菓子パン1個かカップ麺1個だけになるということ。
それなら学校になんて、もう通う理由も意味もない。
入学してから数日おきに学校に行った日もあったけど、数ヶ月もするとほとんど行かなくなった。
それよりも仲間と遊んだり、マサトといたり、バイトをしている方が楽しかった。
マサトと別れてからも、震災で友達を亡くしてからも…私はバイトだけは休まなかった。
痛いとか、悲しいとか、虚しいとか、苦しいとか、寂しいとか…そんな感情には全て蓋をした。
感情に蓋をするのは、あの人達のおかげで小さい頃から慣れていたので…当時の私にとっては簡単なこと。
どうせマサトも友達も、もう帰ってはこないのだから。
だから私には、その8ヶ月間の記憶がほとんどないのだと思う。
何かを考えることをやめて、感じることもやめて、ただ淡々とバイトをしていたような気がする。
もちろん、当時私は未成年だからお店には出られない。
だから換金の仕事と、閉店後の店内の掃除や箱拭き程度の軽作業…。それならば事情を知っている店長と従業員だけにしか会わずに出来る。
私には、なんとしてでもバイトを続けなければいけない理由があった。
ある程度、纏まったお金を貯めなければならなかった。
それはなぜか?
初めは大きな痛手であり、誤算だと思っていたのだけれど…高校生になると給食がないのだという現実を知ったおかげで
【妹が高校生になる前にあの家を出よう・出なければならない】
と思うようになったから。
2歳下の妹がまだ中学生のうちに、まだ給食があるこの期間内に、ある程度纏まったお金を貯めよう。
そうしなければ私と妹はこの先、きっと生きていけない…。
誰がどう考えても、いくら女の子とはいえ、中高生の食事が1日1個の菓子パンやカップ麺で足りるわけがない。
このままだと私と妹は、いつかあの人達に殺されかねない。
当時の私の頭の中は、きっともうそれだけだったんだろう。
当時の私は…自分の全ての感情に蓋をして、バイトをしてお金を貯めることだけにとらわれていた。
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