生存者0人〜本当に闘うべきもの〜

工藤ひより

第1話

ワーッと観客の歓声が聞こえる。

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この歓声は全て、僕に向けられている。

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灼熱の暑さの下、僕は今一つの目標を達成したのだ。

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そして次なる目標に向けて、これからまた毎日を過ごしていく、そう思っていた。

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僕は高校3年生。

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テニスを始めたのは5歳の時。

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両親に連れられて行ったテニスコートで初めてラケットを握り、気がつけばテニスにどっぷりハマっていた。

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初めて出た小学生の大会では、

4年生ながら次々と6年生を倒し、

福岡県大会で優勝した。

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周囲からは、将来有望だと期待をされ、本格的にテニスの道に進むことを決意した。

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両親には仕事が終わってからテニススクールまで毎日送り迎えをしてもらうようになり、家族の生活リズムは僕のテニスが中心となってた。

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中学生の時には全国大会で2位になったが、日本一という目標には届かず、

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高校生では全国大会、すなわちインターハイで優勝することを目標にし、両親とともに3年間を過ごしてきた。

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そしてついにインターハイの決勝戦の日がやってきた。

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近年の8月の暑さは異常で、試合時間が既に3時間を超えた洋服からは、大量の汗が滴っている。

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ついに僕のマッチポイントがやってきた。

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チラッと観客席に目をやると、母親が両手を握りしめて祈っていた。

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自信のあるサーブで攻める、相手のリターンがネットにかかった。

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その瞬間、センターコートに僕の喜びを爆発させた雄叫びと観客の歓声が響いた。

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目標が叶った人生最高の瞬間だった。

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コートを出た後、両親の元に駆け寄り、号泣する母親と抱き合って喜んだ。いつもはクールな父親も、この時ばかりは涙ぐんだ様子で、よく頑張ったと労いの言葉をかけてくれた。

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この時の僕は知らなかった。

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テニスというスポーツができて、

応援してくれる家族がいて、

夢に向かって過ごしている。

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こんな毎日が、

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一気に失われていく地獄を味わうことを、

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僕は知らなかった。

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大学はテニス日本一の名門、八瀬田大学へのスポーツ推薦が決まり、13年間一緒に戦ってきた両親の元を離れ、東京へ上京した。

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次なる目標、大学日本一へ向けて僕の大学生活は始まった。

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そんな頃、世の中ではどこかの国で発症したウイルスにより、世界的に感染症が蔓延していた。

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世界中の製薬会社が、ワクチンの開発を行い、日本でもワクチン接種が始まった。

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毎日感染者の人数がテレビで報道されたが、人々は感染症の報道に慣れていた。

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「本日の感染者数は〜」というアナウンサーの声にも聞き慣れた。

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他にも世の中では物騒な出来事が増えていた。

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ヨーロッパ、アメリカ、オーストラリアなど、世界中で次々と戦争が始まっていった。

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どこで紛争に巻き込まれるか分からないため、海外旅行にも行けなくなっていた。

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近隣国からミサイルが発射されたというニュース速報も年々増えていき

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世界大戦が始まるのではないかというようなニュースが日々舞い込んできている世の中になった。

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しかし僕は、心のどこかで自分には関係ないと思っていた。

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世界平和は政治家が考えること、

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そう思っていた。

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日本国民はみんなそう思っていただろう。

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僕は大学日本一になる。

それだけを考えて、テニスに打ち込んだ。

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入学して3ヶ月が経った頃、暑い夏の日だった。

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冷房をきかせた部屋で、朝食をかき込んでいた時、何気なくつけていたテレビに臨時ニュースが入ってきた。

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