第17話出会いは魔術師 (13)

マレット③


 明日の予定を詳しく説明した後、間をおいてミホが口を開いた。

「あの~、マレットさんの魔法ってどのぐらいか見てみたいんですけど。」

好奇心旺盛だな。

「いいよ。でも、撃てる場所がないと。」

「そんなにすごいんですか!?」

驚くミホ。

俺が本気で撃ったら……この町が消える。

「そうだね。たとえば、海の上空とかなら。海、近くにないですよね?」

「はい、少し遠いです。」

どうしたものか……。そうだ!

「地図ありますか?」

「ありますよ。えーっと、これです。」

そう言って、地図を取り出すミホ。

細かいところまで精巧に表現された地図だ。魔法なしでもよく出来ている。恐るべし。

 大陸の位置とかは特に変わっていないな。問題なさそうだ。

「よし。では、失礼します。」

そう言って俺はミホを抱き上げた。

「え!ちょ、ちょっと急に。ま、マレットさん!」

ミホがなんか言っている。が、気にしない。

ミホを抱き抱えたまま唱えた。

瞬間移動テレポート

俺の足元が光りだした。光が次第にせり上がってくる。

光に包まれた俺たちは、目を閉じた。


 目を開けると、二人は海の上にいた。夜の海だ。

「ヒュー―。」

冷たい風が吹く。

「え!い、今のって、瞬間移動ですよね?すごい!『漫画』みたい。」

『漫画』?よく知らないが。

「下は海ですよ。」

「え!……きゃーーーー!!!!」

いや、そんなに驚かれても。ま、無理もないか。

でも、あまり暴れられると困る。

それから数分、無言のまま、俺はミホが落ち着くまで抱きかかえていた。


星たちは夜風に揺れ、またたいている。下を見下ろすと、波が、黒々とした生き物のようにうねうねと動き続けている。夜の海は不気味だ。いつ見ても、俺を不安にさせる。


ミホの顔を見た。

落ち着きを取り戻したのか、無言で俺の腕につかまっている。

「それでは、撃ちますね。」

「撃つ……?あ、魔法!」

きみ~。今一瞬、忘れてたよね?

まぁ、いい。では、まずは。


「│4《クワトロ》ー7シエテ


俺は静かに唱えた。

「いきます。」

「はい。」

久しぶりの属性魔法だ。

一呼吸して、魔法をイメージしながら唱えた。


47クワレンタイシエテ


俺の手に魔力が集まる。

そうだ、この感覚。体中の細胞一つ一つから魔力が流れ出てゆく感じ。

手の先で、次第に蓄積されてゆく魔力。ボワッと発火する。

そして、膨れ上がった火の玉を暗い夜の海めがけて放った。


「ヒューーー…………バゴーーーーーンンンン」


大きな音を立てて、海とぶつかる火の玉。轟音とともに、周囲が明るさに包まれた。

うわ、やりすぎた!

「っ!!!!!!」

驚くミホ。

無理もない。その衝撃で、火の玉がぶつかった海面の周囲約50mの水位が10mほど下がって見えた。

少しすると火の玉がしぼんで消えてゆき、いつもの海に戻った。

「こ、これって、どのぐらいの規模の魔法なんですか?」

顔を引きつらせながらミホが聞いてきた。

「中級上位程度の魔法かな。」

「中級...程度って。...」

その後もミホは何かつぶやいていたが、聞こえなかった。

俺にとったら、それでも軽めに撃ったつもりだ。だが、初めてこの魔法を見る人には衝撃かもしれない。

「マレットさん。い、家に、戻りませんか?」

ミホが提案してきた。

「うん、そうだね。体も冷えるしね。」

俺は再び、「瞬間移動テレポート」と唱えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る