第10話出会いは魔術師 (6)

マレット②


 店から出たら、外は暗かった。いや、正確には空が暗かった。

街は光で包まれていて、星は一つも見えない。月明りさえも街の光に負けてしまっていた。夜だというのに人は多かった。

 会計を終えた少女がこちらに向かって歩いてきた。

「そういえばお互いの自己紹介はまだでしたね。」

にっこりと笑って言う少女。男をいちころにしてしまう程の笑顔で、思わず顔を背けた。

「そ、そうですね。」

遠慮気味に俺は答える。なにせ、名前を言って笑われた記憶があるからだ。

「私の名前は大空美穂です。えーっと、17歳で特技は料理です。よろしくお願いします。」

少女、いやミホが自己紹介をする。

「ミーホって言うんですね。」

「違います。美穂です。」

「え?ミーホですよね。」

「発音が違います。美しいと稲穂の穂で、み・ほです。」

何度も訂正される俺。おっかしーなー。

「ミーホ?」

「み・ほ」

「ミーホ?」

「み・ほ……ハハハハハ。」

突然笑い出すミホ。ふむ。どうやら俺の発音がまたもダメだったらしい。俺の知り合いに名前の作りが似ているが、発音は難しい。

「ハハハ…ハー、笑いすぎた。絶対日本人じゃないよ。ねえ、あなたの名前は?」

聞かれた俺は少し黙り込んだ。この世界で魔術師は存在しないことになっている。だから魔術師と名乗るわけにもいかない。かといって、一回名乗ったことがあるため、偽名を名乗るわけにもいかない。まず、日本人の普通の名前が分からない。

だから、仕方がなく普通に答えた。

「我の名前は、マレット・フレーツ。マレットが名で、フレーツが苗字だ。よろしく。」

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