第5話 スライム


 スライムがあらわれた!

 といっても、いきなりでどうしたらいいのかわからない。


「ど、どうしたらいいんだ……!? 俺、武器とかもないし……」

「落ち着いてください踪弌そういち様、踪弌そういち様に与えられたスキルをつかえば、楽に倒せる相手です」

「そ、そうだ……スキル……!」


 俺はさっきもらったスキルを思い出した。

 まずは弱点ウィークネス調査サーチで相手の弱点を探ろう。


「えい! 弱点ウィークネス調査サーチ!」


 すると、スライムの身体の中心核の部分が、赤くハイライト表示された。


「あそこを狙えばいいのか……!」


 そうこうしているうちに、スライムがこちらに襲い掛かってくる。

 これはゲームの世界じゃない。だから、ターン制じゃないから、のんきに考えていたりはできないのだ。


「うわ……!?」


 よけようとするが、思うように体が動かない。

 スライムのような弱そうなモンスターでも、怖いものは怖いのだ。

 ゲームとは違って、現実のダンジョンは命がかかっている。

 スライム相手でも怪我をすれば、最悪の場合命にかかわる。


「そうだ……! えい……! 瞬間転移!」


 俺はとっさにスキルをつかった。

 とにかくスライムの攻撃をよけなきゃと思ったのだ。

 すると、転移でスライムの後ろ側に逃げることができた。


「便利なスキルだ。移動だけじゃなく、回避にもつかえるとは……」


 とりあえずスライムのうしろをとった。

 次はこっちの攻撃といこう。

 俺はビーストモードをつかった。


「おら! ビーストモード……!」


 スキルを発動させると、俺の全身の毛が逆立つような感じがした。

 血がどんどん熱くなって、身体中に力がみなぎってくる。

 これがビーストモードか。

 今なら、素手で林檎くらいなら簡単に握りつぶせそうな気がする。

 俺はうしろからスライムにおもいきりパンチした。


「ピキー!」

「な……!?」


 しかし、スライムはすばやく、ひょいとよけられてしまう。

 くそ……どうすりゃいい。

 そうだ、ネメシスフィールドだ。


「えい! ネメシスフィールド!」


 俺はスキルを発動させた。

 ネメシスフィールドが発動し、俺の周囲の時間の流れがおそくなる。

 スライムの動きが、止まったかのようにのろくなる。

 そこを、俺はすかさずとらえる。


「そこだ……!」


 俺は空中で止まったスライムを、おもいきりパンチした。

 ――ズドン!

 ビーストモードでの攻撃力はすさまじく、一撃でスライムのコアを破壊し、つらぬく。


「やった……!」


 みごとスライムを撃破した。


「それで……こっからどうすればいいんだ……?」


 その場には、スライムの死体が残された。

 俺は探索者になった経験がないから、こっからの手筈がわからない。


「剥ぎ取りをすればいいですね」

「剥ぎ取りか……っても、スライムだしな……どこを剥げばいいんだ……?」

「スライムは、中に手を突っ込んでコアを取り出します」

「うげ……気持ち悪い……」


 俺はおそるおそるスライムの中に手を入れる。

 すると、コアらしきものがとりだせた。


「これがコアか……こんなんが高値で取引されたりするんだよな……?」

「まあ、今回はチュートリアル用の雑魚スライムなので、そうでもないですけどね」

「あ、そっか……まあ、今晩のビール代くらいにでもなれば上等だ」


 もっと高額なもうけをだそうと思ったら、それこそドラゴンとかそのクラスのを狩らなければならないらしい。


「あ、それから魔石の回収もお忘れなく」

「魔石……? これのことか……?」


 スライムの死骸の横に、なにやら転がっていた石を拾い上げる。


「そうです。魔石はどのモンスターも必ずドロップします。その種類や大きさによって価値はさまざまですね」

「そうなのか、覚えておく」


 俺は魔石とスライムコアをアイテムボックスにしまった。


「講習は以上となります。これで私の役目は終わりですね」

「そうなのか……」

「残念ですが、私はもう消えてしまします」

「え……!? 残念だな……」


 さっき会ったばかりの妖精とはいえ、俺にダンジョンのなんたるかを教えてくれたやつだ。

 いなくなるのはさみしい。


「私は御先祖につかえていた妖精ですからね。今は魔法の力でこうして時を超えて、踪弌そういち様にお話をしていますが、本来は私ももうすでに死んでいる存在です。役目が終われば、消える運命にあります」

「そうなのか……これまで、短い間だったが、ありがとう」

「いえいえ、よきダンジョンライフを願っておりますよ。踪弌そういち様。ご先祖の遺産、どうぞ有効活用してください」

「ああ、そうさせてもらうよ」


 俺は、ダンジョン妖精に別れを告げた。

 それから、ダンジョンから出ることにする。

 今日はもうスキルも使用してしまったから、これ以上先に進むのは危険だ。

 1階層しかない初級者向けダンジョンだといっても、俺は武器ももっていないのだからな。

 またあらためて、武器なんかを用意してからこよう。


「ふぅ……疲れたぜ……」


 ダンジョンから出ると、すでに日が暮れていた。


「もぅ、お兄ちゃん遅い!」

「わるい、ごめんごめん……」


 そこにはぷんすか顔の美玖が待っていた。

 どうやら長い時間待たせてしまっていたようだ。


「お兄ちゃんがあまりにも遅いから、部屋勝手に入ったからね」

「え……? 部屋って、俺の部屋……!?」

「そう、ほんと散らかしっぱなしだったから、かたずけしておいたから」

「す、すまん……」


 この家に引っ越してきて間がないから、まだ荷ほどきとかしてなかったんだ。

 もしかしたら、エロ本とか見られたかな……。

 それにしても、美玖はできた子だな。

 俺の掃除までしてくれるなんて。

 家の中に入ると、台所からはいい匂いがただよってきた。


「美玖……これは……?」

「あまりに遅かったから、晩御飯もつくっちゃったんよ」

「えぇ……!? 美玖が……!?」

「なに? あかんかった……?」

「いや、そうじゃなく……うれしいよ」


 まさかまさかだ。

 美玖はほんとうに気が利くいい子だな。

 それから、二人でダンジョンの話をしながら飯を食った。

 美玖が作ってくれたあたたかい豚汁は、とても美味しかった。

 

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