第14話 殺


「私は文埜あやのあやめ。あなたの埋蔵金ダンジョンを攻略させてほしいの」


 女性は、俺に真剣な顔つきでそう言ってきた。

 ま、まさか……これは、初めてのダンジョン探索者さん……!?

 俺は浮足立つ気持ちを抑えながら、言った。


「も、もちろんですよ! ぜひぜひ!」

「よかった……」


 あれだけ動画を出して宣伝しても、なかなか来てもらえなかったダンジョン探索者。

 その記念すべき最初のお客さんが、まさかこんな美人さんだなんてな。


「それで、料金はいくらくらいなのかしら?」

「あ……そうですね……」


 そういえば、ダンジョン攻略の料金をくわしく定めていなかった。

 ダンジョン探索の料金って、普通はいくらくらいなのだろう。

 まあ、うちのダンジョンは初心者向けのダンジョンだし、まだまだお客さんもいない不人気なダンジョンだからなぁ……。

 それほど多くのお金を取るわけにもいかないよなぁ……。

 だけどまあ、中で出てくるスライムから、50万ほどは簡単に儲けられるからなぁ。

 だったら、50万くらいが相場でいいのかなぁ。


「50万……ですかね」

「そ、そうなの……。じゃあ、カードで支払うわ」

「あ、はい」


 そういって、あやめさんはカードを手渡してきた。

 うちのじいさんの家は、表が雑貨屋みたいになっている。

 なので一応レジもカードリーダーもあった。

 俺はちょうどいいと思い、店のレジを使用して会計をすませた。


「じゃあ、ダンジョン潜らせてもらうわね」

「あ、はい。ごゆっくりどうぞ」


 ということで、殺さんはダンジョンの中に消えていった。

 はじめてのお客さん、満足してもらえるか不安だ。

 殺さんが去ったあと、美玖が話しかけてくる。


「綺麗な人やったね……」

「ああ、そうだな……」

「もう、お兄ちゃん。鼻の下のばしすぎ……」

「えぇ……? そうかぁ……?」


 なんだか美玖に嫉妬されてしまった。

 まあ、殺さんかなり美人だったしなぁ。

 俺も無意識に顔に目がいってしまっていたのかもしれない。

 殺さんがダンジョンに潜っているのを邪魔するのもあれなので、俺はそのまま家の中で美玖とくつろぐことにした。

 ま、テレビでも見とくか。



 ◇



【side:殺】


 私の名は文埜あやのあやめ

 普段は、AYAYAの名前で配信者をしているダンジョン探索者だ。

 これでも界隈ではかなり有名で、自分でいうのもあれだが、実力もかなりの上位だと思っている。

 そんな私は、ある日動画配信サイトで、とある動画を発見したのだ。

 それは、おじさん探索者が、自分の家の庭のダンジョンを攻略していくというものだった。

 そう、矢継早踪弌そういちの動画だ。


 そのダンジョンは、今までに見たことないくらいの難易度のダンジョンだった。

 ゴブリンキングが一気に15体も出てくるような、規格外のダンジョン。

 私は自分を最強だと信じていた。

 そんな私は思った。

 このダンジョン……私に攻略できるのか……?

 と。


 今まで、難易度が高いとされるダンジョンはすべてクリアしてきた。

 それもソロでだ。私は最強のソロ探索者だと自負していた。

 この最強のダンジョン、私が攻略しないで、誰が攻略するのだと思ったのだ。

 気が付いたときには、京都へ足を向けていた。


 そして、ようやく埋蔵金ダンジョンにたどり着き、中に入れたのだ。


【埋蔵金ダンジョン――F1】


 あたりを見渡す。

 なんの変哲もない、草原型のダンジョンだ。


 しばらく散策していると、ゴブリンキングが現れた。


「出たな……!」


 通常のダンジョンであれば、ゴブリンキングなんかは10階層よりも上の階じゃないとまず現れない。

 そのくらいの強敵だ。

 しかしここでは、第一階層から、ゴブリンキングが複数体で出る。

 ありえない。

 私はゴブリンキング3体に囲まれていた。


「だが……このくらいなら……!」


 私は固有スキルを発動させる。


「炎陣結界――!!!!」


 すると、私を中心に炎の円が広がる。そして、私を守るようにして炎の結界が貼られた。


「グオオオオオオオオオオオオ!!!!」


 ゴブリンキングはこちらに近づこうとしてくるが、炎の円がそうさせない。

 その隙をつく。

 私は炎の円の中から、ゴブリンキングに攻撃する。


「えい!」


 ――ズシャアア!!!!


 私の紅蓮剣でゴブリンキングを一刀両断。

 このくらいの敵なら、まだ私にもなんとかできる。


「ふぅ……余裕ね」


 しかし、このダンジョンの恐ろしいのはここからだった。

 さらに進んで、第二階層。

 第二階層は岩でできたダンジョンだった。


 そして、私の目の前に現れたのは――。


「ゴーレム……」


「ゴゴゴゴゴゴゴ!!!!」


 超巨大なゴーレムが現れた。


「これは、ただのゴーレムじゃない。ゴーレムキングね……!」


 ゴーレムキングはその巨大な腕を叩きつけてきた。


 ――ドン!


「うわ……!」


 しかし、こちらも負けていられない。


「炎陣結界――!!!!」


 再び固有スキルを発動させ、結界を張り巡らせる。

 しかし、ゴーレムキングは私の炎をものともせず、軽々とそれを踏みつぶした。

 ゴーレムキングに踏まれて、炎が勢いを弱める。


「っく……! これでもくらえ!」


 私は剣でゴーレムキングに斬撃を加える。

 しかし、まったく歯が立たない……。


「くそ……」


 それからしばらく戦ってみたが、勝てる気配がない。

 私はあきらめて、いったんダンジョンを出るのだった。


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