第18話 限界突破


あやめさん……!?」

 

 俺は声のする方へ、急いで走っていった。

 

 そこには、たくさんのオークがいた。

 あやめさんが、オークに囲まれている。

 それも尋常じゃない数のオークだ。


「や、矢継早さん……! た、助けて……!」

「もちろんです……!」

 

 しかし、この数のオークだ。

 どうすればいい……?

 今日はもうビーストモードも使ってしまっている。


 俺はオークたちに向かって牽制射撃を繰り出した。

 しかし、数匹に致命傷を与えるも、おびただしい数に囲まれていて、なすすべがない。


「っく……どうすれば……」


 そうこうしているうちに、オークが攻撃をしかけてくる。


「っく……」


 俺はとりあえず、ネメシスフィールドを発動させる。

 なんとか時間をとめて攻撃をふせぐ。

 弱点調査でオークの弱点を調べる。

 どうやらオークは首の後ろが弱点なようだ。

 ネメシスフィールドで時間を止めているあいだに、俺はオークの弱点に射撃していく。

 かなりの数を減らすことができた。

 しかし、ネメシスフィールドの効果が切れる。


「まだまだいるな……」


 さすがにこれはキツイ。

 どうすればいい……!?

 ビーストモードさえ使えれば……。

 いや、ここは転移で逃げよう。


あやめさん……!」


 俺はあやめさんの手を引いて、転移を使う。

 しかし、転移できたのは俺だけだった。


「……!?」


 どうやら瞬間転移で移動できるのは、俺だけみたいだ。

 誰かを連れて飛ぶということはできないらしい。

 これじゃあ、逃げることもできない。

 っく……どうする……!?

 そうこうしているうちに、一人になったあやめさんのもとへオークたちが一斉にとびかかる。

 このままじゃ、やばい。

 転移であやめさんのところまで駆けつけるが、射撃が間に合わない。


 俺は、覚悟を決めた。

 ビーストモードは体力的に、一日一回が限度だ。

 だが、俺はもう一度ビーストモードを発動させる!

 これで死んでも構わない……!


「うおおおおおおおおおおおおお!!!!」

「矢継早さん……!?」

あやめさんは俺が守る……!!!!」


 ビーストモード本日二回目。

 正直、脳が焼き切れそうだ。

 身体中の筋肉が痛む。

 だが、負けるわけにはいかない。

 俺は、修羅となった。


「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 ――ドカ!

 ――バキ!

 ――ドゴォ!


 俺はオークたちをばったばったと蹴散らしていく。

 何分たっただろうか。

 そろそろビーストモードの効果が切れそうだ。

 気が付くと、周りにはオークの死体ばかりになっていた。


「はぁ……はぁ……、あやめさん、大丈夫ですか?」

「そ、そういうあなたこそ……」

あやめさん……無事なら……よかった……」


 俺はそのまま、意識を失った。


「……!? 矢継早さん……!?」



 ◆



 次に目が覚めると、


「知らない天井……じゃないか……知ってる天井だ……」


 俺は自部屋のベッドで目が覚めた。

 あれから、なにがあったのだろうか。

 起き上がろうとするも、全身が痛い。

 筋肉痛を通り越して、もはや動かすこともできないくらい、身体が痛い。


「いててて……なんだこれ……」


 そうこうしていると――。


「矢継早踪弌そういち……」

「あれ、あやめさん?」


 俺の顔を覗き込むあやめさん。

 どうやらずっと、ここで俺の寝顔を見ていたらしい。

 あやめさんの横には、美玖もいる。

 美玖は俺が目を覚ましたことを確認すると、俺に覆いかぶさるようにして抱き着いてきた。


「うええええええええん! お兄ちゃん……! お兄ちゃん……! もう目覚めへんかと思ったよおおおお! よかった! ほんとうによかったあああああ!」


 美玖は大泣きして、俺にだきついてくる。

 しかし、俺は筋肉が全身めちゃくちゃ痛いから、そんなことをされると、死ぬほど痛い。

 死ぬほどの痛みが、俺の全身を襲う。


「いででででででででで!!!! 死ぬ! 死ぬから!!!! 美玖!!!! はなして!」

「ご、ごめん……」


 どうやら、俺は長い間眠ってしまっていたらしいな。

 二人には心配をかけた。


「俺は、どのくらい寝てたんだ?」

「三日よ……」


 あやめさんが答える。


「そっか……そんなに……あやめさんが、ここまで運んでくれたんですか?」

「え、ええ……。そうね。あなたは、オークを倒したあと、倒れたから……」

「そうですか……はは、すみません。ありがとうございます」


 俺がそういうと、今度はあやめさんまでもが半泣きになって、


「ありがとう……礼をいうのはこっちだわ……。私のへまのせいで、あなたを危険な目にあわせてしまった……。ごめんなさい……」

「い、いえ……! 俺が勝手にしたことですから……」

「いえ。私が悪いのよ。あなたに負けないようにと……悔しくて、無茶な戦いをしてしまったの。そのせいで追い込まれて、あなたまでもをピンチに……。そのせいで、あなたにむちゃをさせてしまった……。ほんとうにごめんなさい。そして、ありがとうございます。あなたは、命の恩人だわ」

「そんな。大げさですよ」


 とにかく、俺はあやめさんを守れたわけだ。

 それだけは、よかった。

 ビーストモードにはどうやらかなりの副作用があるみたいだな……。

 今度から気を付けないと。


 俺は、もっと強くならないとな……。

 自分の家のダンジョンでは、なるべく死んでほしくない。

 自分のダンジョンで人が死なないように管理するのも、管理者である俺の役目だと思う。

 だから、俺はもっと強くならないと。


「あ……! 三日も寝てたなら、その間にまたダンジョン大きくなってるんじゃ……!? くそ……はやく攻略しないといけないのに……」


 起き上がろうとすると、身体に激痛が走る。


「ちょっと、お兄ちゃん。まだ安静にしてないとだめやからね!」

「そうよ……。無茶はだめだわ……」


 二人に泊められてしまう。


「はは……ごめんごめん……。それで、二人はここでずっとおれのことをみていてくれたのか?」


 なんだか申し訳なくなってしまう。


「ううん、私やなくて、あやめさんが」

「そっか……ありがとう。あやめさん……」


 あやめさんは責任を感じてなのだろうか、ここでずっと俺が目を覚ますまで見ていてくれたみたいだ。


「いえ。私のせいでこうなっているのだから、当然だわ。それよりも……本当に、あなたが目を覚ましてよかった……。ほんとうに、よかった」

あやめさん……」


 あやめさんは俺なんかのために泣いてくれていた。

 はぁ、助けられたはいいけど、かなり心配かけちゃったみたいだな。

 俺は、もっと強くなろうと決心した。

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ダンジョン・ゴールドラッシュ✨~ダンジョンに興味がない無気力なオッサン、先祖の埋蔵金掘ったらダンジョン出てきたのでとりあえず配信してみる。普通に攻略してただけなのに、なぜか不本意ながらバズって困ってる 月ノみんと@成長革命2巻発売 @MintoTsukino

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