第6話 配信


「ねえお兄ちゃん、ダンジョンの中でなにがあったん?」

「そうだな……スライムを倒した」


 俺たちは美玖の作ってくれた夕食を食べながら、話していた。


「ほな、ダンジョン探索者になるん?」

「いや、そういうわけではないが……」


 俺はもうこの歳だし、今更ダンジョン探索者になる気なんかない。

 そんなことよりも、せっかくだからこのダンジョンを有効活用しようと思う。


「ダンジョン探索者を呼び込んで、ダンジョン攻略料で金をとって儲けるってのはどうだ? 自分で探索者になるよりも、そっちのほうがよっぽど儲かる」

「そうやねぇ。危険なんもあるし、そっちのほうがいいかもね」

「だろ?」


 とはいっても、ダンジョンはまだ一階層しかないからな。

 これから毎日水やりをして、ダンジョンを育てていかなくちゃならない。

 あとは、ダンジョンが庭に生えたってことで、明日市役所にいって国に届け出を出さないとな。


「明日朝いちで市役所にいってくるよ。届け出を出したら、きっとダンジョン探索者がたくさんくるぞ」

「ほな、うちも町おこしになるかもやね」

「そうだな。じいさんが世話になった、地元の人に恩返しができるかもだ」


 そんな淡い期待を抱いていたのだが……。

 実際にはそんなことにはならなかった。

 前日の宣言通り、俺は朝いちで市役所にいって、ダンジョンを登録してきたのだが。

 それから三日たっても、ダンジョンにやってきた探索者はゼロだ。


「はぁ……こういうもんなのか?」

「まあ、仕方ないんとちゃうかな? ダンジョンって、日本全国だけで2000以上もあるし……」

「そっかぁ……」


 よくよく考えてみれば、こんな田舎の僻地にある得体の知れないダンジョン、誰もこないのは当たり前だ。

 ダンジョン攻略料で儲けが出ているのって、もっと会社が管理していたりとかで、宣伝広告費がばんばんあるようなところだけだ。

 個人の庭に生えたダンジョンで利益がうまくいってるような例は、ほんとうに少ない。

 調べてみたんだけど、そういうダンジョンは、なにか特別なダンジョンか、もしくは立地が異常にいいかとかだ。

 渋谷のダンジョンとかは、けっこうみんな儲かってるらしい。


「やっぱ、人がいねえとこねえよなぁ……」


 渋谷や新宿に、いくらでも稼ぎのいいおいしいダンジョンがあるのだ。

 こんな京都の田舎にぽっとでで出来たダンジョンなんかに、誰も眼もくれないのは当たり前だった。

 ほとんどのダンジョン探索者が、仕事の都合上、関東にいる。

 ほとんどのダンジョン探索者は東京に住んでいるといって過言ではないだろう。


「探索者、来てくれねえかなぁ……」


 ダンジョンが庭にできたら攻略費用とりまくってがっぽがっぽとはなんだったのか。

 それってあくまで都会での話なんだよなぁ……。

 なにかうちのダンジョンにしかない特色があればいいんだけど。

 ていっても、俺はダンジョンなんか興味もなかったから、なにが普通のダンジョンなのかもしらないけどさ。


「そういえばあのダンジョン妖精、うちのダンジョンは成長するとかいってたな」

「そいや、なんか増えてたねぇ」

「うん」


 こうしている間にも、あれから三日ほどたっているので、ダンジョンは成長していた。

 今では、軽く三階建てのアパートくらいの高さにまで成長している。

 このままいくと、どこまで伸びるんだろうか、あの木。


「ほなったら、それを売りにしたらどう? せっかくやねんし」

「そうだなぁ……。でも、売りにするったって、どうやって……」

「動画に撮ればいいんよ! 配信しよ、配信」

「配信ん!? つったってなぁ……俺、そういうのよくわからんし……」


 そういえば、ダンジョン配信者とかってのが流行ってるんだっけ。

 若者の考えることはよくわからない。

 俺は配信機材とかも持ってないし、配信のやり方もよくわからない。


「大丈夫よ、私が手伝ってあげるから」

「美玖がか? いいのか、そこまでしてもらって」

「乗りかかった船だもん。沈むまでは付き合うよ。それに、お兄ちゃんとこうやってまたいろいろやるの、楽しいもん!」

「そ、そっか……なら。お手伝い、お願いしようかな」


 ということで、俺は美玖のサポートのもと、ダンジョンを動画にとることにした。

 これがうちの【埋蔵金ダンジョン】のPRになればいいんだけどな。

 ちなみにダンジョンには、あらかじめ固有の名前がついている。

 うちの場合は、埋蔵金ダンジョンだな。

 渋谷で一番有名なダンジョンは、白虎ダンジョンとかって名前だったけ。

 とにかく、日本にはさまざまなダンジョンが存在する。

 だから、うちのダンジョンにしかない特色をアピールしていかないとな。


「動画を配信して、ダンジョン探索者たちにアピールする! それでダンジョン探索者がやってきて、攻略費用でがっぽがっぽだ!」

「めざせダンジョンマスターやね!」

「ダンジョンマスターはちょっとまた意味が変わってくるような……?」


 とにかく、そういうことになった。

 まずは、ダンジョンの外観を毎日動画におさめることにする。

 成長するダンジョンなんて、それだけで珍しいだろうからな。

 まず一日目、まだダンジョンはアパートくらいの高さだ。

 それから、一週間ほどが経った。

 ダンジョンは5階建てマンションくらいの高さにまで成長している。


「おお……これはダンジョンの成長日記ってとこだな……さっそくアップロードしよう」

「そうやね……これは伸びる予感するよ……!」


 俺たちは一緒に動画を編集して、ダンチューブに動画をアップロードした。

 しかし、しばらくたってみても、動画は一向に伸びない。


「チャンネル登録者……3……」

「全然ダメだな……」


 まさかここまで見られないとは思っていなかった。

 さすがにもうちょっといくだろう……?

 タイトルは【ダンジョンの成長記録】なんだけど、これタイトルがダメなのか?


「お、でもコメントがきてるぞ!」

「どれどれ……?」


 コメントには、こう書かれていた。


【ただの木じゃん。合成乙】


 ま、まあ……ただの木に見えるよな……。

 まあ、クソでかい木なんだけど。

 そこにポータルが雑にひっついているような見た目をしているから、まあ合成に見えるのも無理はない。


【ダンジョンが成長するとかありえねえw嘘乙】


 こんなコメントも来ていた。

 くそ……全然信ぴょう性ないんじゃん……。


「だめだな……こんなんじゃ、全然バズには程遠い……」

「やっぱり、お兄ちゃんがダンジョンに潜ってみんとだめなんじゃ?」

「やっぱそうかぁ……ダンジョンは攻略してなんぼだもんな……」

「うん、せっかくスキル? とかももらったんやし、お兄ちゃんが攻略するのがええと思うよ。攻略していったら、また他にも先祖様からのプレゼントとかあるかもやし」

「そうだよなぁ……ようし、じゃあ俺がダンジョン探索者になってやりますか……!」


 ということで、次からは俺が実際にダンジョンに潜って、動画をとることにした。

 それと、せっかくなので、俺自身でダンジョンをもっと積極的に攻略していこうと思う。

 先祖の遺産としてもらったものだから、まず攻略するのはやっぱり俺じゃないとだめだろう。

 しばらくはダンジョン探索者になるのなんてためらっていた俺だったが、ちょっと腹をくくった。

 誰も攻略にこないなら、俺が攻略するしかない。

 さっそく俺は、貯金を切り崩して武器屋に向かった。


 あと、誹謗中傷コメントきたら怖いから、コメント閉じておこうっと……。

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