第7話 換金商


 武器屋に行くために、俺は一度東京に戻ることにした。

 主要な武器屋も、やはりダンジョン探索者と同じく東京にばかりある。

 ダンジョン探索者ように売られている武器は、どれも日常生活にあっては危険なものばかりだ。

 だから、専門の店で買わなくちゃいけないし、いろいろな誓約がある。

 ダンジョン探索者専門の武器店は、そんな理由もあって東京にあった。

 それと、武器屋に行く前に、まず行くべき場所がある。


 それは、換金商のところだ。

 換金商ってのは、ダンジョンで得たアイテムを買い取ってくれるところだ。

 俺の学生時代の友人に、一人換金商をやってる男がいた。

 今回はそいつを頼ろう。

 換金商ってのは、なにかと信用ならないからな。

 俺がダンジョンのことに疎いのをいいことに、いろいろと安く買いたたかれたりしかねない。

 スライムと戦ったときに得た、スライムコアと魔石を売ることにしよう。


 俺は学生時代の友人である、牧篠まきしの幽而ゆうじに連絡をとった。


「久しぶりだな、牧篠まきしの

「そういう矢継早やつぎばやこそ、元気そうだな」


 俺たちは数年ぶりの握手をかわす。

 牧篠まきしのは昔から、ダンジョンのことばかりに熱心で、詳しいオタクみたいなやつだった。

 俺はめっぽうダンジョンのことには疎くてな。


「それにしても、あのダンジョンにはからっきし興味のなかった矢継早が、なにごとだ? 急に連絡よこしたと思ったら、ダンジョンでの戦利品を買い取ってほしいなんてな」

「いやぁ、いろいろ事情があってだな」

「あの矢継早が、ダンジョン探索者ねぇ……」

「いや、まだ正確にはダンジョン探索者になったわけじゃないんだけどな」


 とにかく、と。俺はダンジョンで得た戦利品を取り出した。

 戦利品を一目見ると、牧篠まきしのの表情ががらりと変わり、真剣なものになった。

 やはり、こいつはダンジョンのこととなるとなんでも熱心なやつだった。


「おいおいこりゃあ……どこで手に入れたんだ……? かなり大きい魔石じゃねえか。スライムコアのほうも、状態がいい」

「どこでって、そりゃあダンジョンでだが」

「じゃなくて、どこのダンジョンかだよ。渋谷か? 新宿か?」

「いや、京都だ。俺んちの庭」


 俺がそういうと、牧篠まきしのは声をあげて驚いた。

 驚きのあまり、手に持っていた魔石を落としそうになったほどだ。


「はぁ……!? そりゃなんて冗談だよ……庭にダンジョンって、宝くじでもあたったか」

「まあ、そんなもんだ。だが、まだ一銭にもなっちゃいないがな。詳しく話すと長い。とにかく、かくかくしかじかで、俺はダンジョンの管理人兼ダンジョン探索者みならいになっちまったってわけだ」

「しばらく見ねえうちに、お前も大変なことになってんだなぁ……。その、美玖ちゃんとかっていう女子高生には、感謝しろよな。お前ひとりじゃ、ここまでスムーズに事は運んでないだろうからな」

「ああ、もちろんだ。彼女には感謝してるさ」


 ちょっと状態がいいものだから、査定には時間がかかるらしい。

 ということで、俺はいったんやつの店から出て、隣の牛丼チェーンで昼飯を食いにいった。

 牛丼屋から戻ると、牧篠まきしのがとんでもない顔で俺に迫ってきた。


「おい、こいつはとんでもねえぞ……!」

「なにがだ……?」

「なにがって、かなりのレア品なんだよ! なんと、この魔石の年代測定をしたんだ。そしたら、出たんだよ……。なんとこの魔石、1700年代のものなんだ……」

「そいつがどうかしたのか? ただ古いだけの魔石だろう?」


 自分で言っていて、俺は無順に気づいた。


「だっておかしいだろ、ダンジョンがこの世界に出現したのは、2000年代になってからだぜ……? なんで1700年に魔石があるんだよ……」

「あ……そうか……そうだよな……」


 俺の先祖の時代からダンジョンはあったのか?

 だとすると、この魔石もその時代のもの。

 一般に知られているダンジョンの歴史には、確実に嘘がある。


「とにかく、このことは俺とお前だけの秘密だ。こんなの学会にバレたら、世界がひっくりかえるからな」

「ああ、そうだな……で、値段はいくらだ?」

「馬鹿おまえ、こんなものに値段つけれるわけないだろうが! それこそ博物館に寄贈でもしたら、億の価値がつくぞ……! 俺に払えるかよ……」

「そ、そうか……困ったな」

「まあ、これは買い取れない。他のとこにも持って行くなよ?」

「も、もちろんだ……」

「代わりにといってはなんだが、スライムコアのほうはいい値段で買い取らせてもらうぜ」


 それはありがたい。

 なにも俺も学会を騒がせたり、旧友から億の金をぶんどったりがしたいわけじゃないからな。


「このスライムコアのほうも、いいものなのか?」

「ああ、まあな。剝ぎ取りがすばらしく上手に行われてる。これ、お前がやったのか?」

「ああ。そうだが」

「初めてにしては上出来だ。このスライム、かなり強かっただろう?」

「うん? いや、そうでもないがな……」

「そうか? 矢継早、お前はなかなかダンジョン探索者に向いてるのかもな」

「はぁ」


 牧篠まきしのの言ってることはよくわからなかった。

 剥ぎ取りがうまいとかっていわれても、俺はダンジョン妖精にいわれるがままにはぎとっただけだしな。

 たんにスライムに手をつっこんで、コアをもぎとっただけだ。

 それに、スライムだぞ?

 スライムなんかがそんなに強いわけがない。

 スライムに苦戦なんかする探索者がいるのか?

 ダンジョン探索者に向いてるといわれても、どうもにもピンとこない。


「まあ、いい。スライムコア一個の買い取りで、50万円だ」

「はぁ……!?」

「なんだ? 足りないのか……?」

「いや……多すぎるだろう……」

「そうか? こんなもんだと思うけどな。相場からいっても」

「うえぇ……ダンジョン探索者って儲かるんだなぁ……」


 スライム一匹倒したくらいで、50万もの大金。

 俺の働いてたときの月給が一瞬にして……。

 もしかして、マジでダンジョン探索者になるべきなのかもな?

 とにかく、俺は牧篠まきしのから50万を受け取り、店をあとにした。


「またなにか戦利品があったら持ってこい。俺のところにだぞ。なんだかお前の家のダンジョンはどうもようすがおかしい。他の連中に知れたらなにが起こるかわからないからな」

「あ、ああ……またお願いするよ」


 俺は武器屋に向かった。


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