第8話 武器屋


 武器屋は渋谷にある。

 仰々しい建物の中に入ると、これまたいかつい顔をした男たちに出迎えられる。

 ダンジョン探索者は、国から武器の携帯が許可されている。

 だが、特別な誓約書を書かなければならず、法律もかなり厳しい。

 例えば、ダンジョン以外で武器を取り出して使ったりなんかしたら、かなり重い罰則がかされることになっている。

 武器のあつかいには、それだけ慎重だった。

 そのため、武器も気軽に買えるような値段では売られていない。

 遊びでダンジョン探索者になろうなんていう連中では、とてもじゃないが手が出ないほどだ。

 本気でダンジョン探索者になろうというものだけが、この武器屋に足を踏み入れる。


「初心者ようの武器がほしいんだが」


 俺は店員の男にはなしかける。

 店員の男はまるで傭兵かSPのような、屈強な男だ。

 サングラスをしている。

 頭はスキンヘッドで、服装は黒のタンクトップに迷彩柄のズボン。


「初心者か。その年でか?」

「わるかったな、オジサンで……」

「いや、すまんすまん。珍しいものでな。ダンジョン探索者になろうなんてのは、みんな若い連中だ」

「だろうな」


 俺も、ダンジョン探索者になるなんて思いもしなかった。

 

「それで、武器は遠距離タイプか近距離タイプ、どっちがいい? ま、ようは銃か剣かだな」

「そうだな……どうしようか……」

「オッサンには銃がお勧めだな。剣はさすがにフィジカル的にも厳しいだろ」

「言うな……。まあ、実際そうなんだよな。剣はさすがに今更振るにはきついぜ」


 腰も痛いし、近距離で戦うのはあまりイメージがわかない。

 剣で戦うのは命の危険もともなうしな。

 銃で安全な距離から戦いたいものだ。


「だったらこのアサルトライフルなんかがお勧めだ。AK-47をダンジョン探索者ように改造したものなんだ」

「ほう、値段は?」

「500万ほどだな」

「足りない……」


 さすがに武器一つがそこまでの値段するとは思わなかった。

 ていうか、初心者にそんな高いの買わせようとするなよ……。

 俺が30代だからって、そこそこ金もってると思ってふっかけてきたな?


「予算はいくらなんだ?」

「50万だ。防具と合わせてな」

「なんだ、それじゃろくなのが買えないぜ」

「だけど、これ以上は出せない。とりあえず、初心者がつかえればなんでもいいから、売ってくれ」

「だったらこのMP5を改造したものがいいな。これなら30万で売れる。あとは防具を適当に20万ほどでみつくろってやろう」

「ああ、頼む」


 俺は店員の男に任せて、待合室でコーヒーを飲んだ。

 しばらくして、俺用に採寸された防具を、奥からもってきてくれた。

 それから、銃の打ち方の講習を受ける。

 店の奥に、銃をためしうちできるコーナーが用意されていて、そこで使い方を教わった。


「よし、これであんたもいっぱしのダンジョン探索者だ。また金が手にはいったら、ぜひうちで武器を新調しにきてくれよな!」

「ああ、近いうちにまたくることになるだろうな」


 俺は新品の武器と防具を鞄に詰めて、京都の家に戻る。



 ◇



 京都の家にもどり、美玖と再会する。

 俺が買ってきたものを見せると、美玖は唖然としていた。


「ほんで、売り上げの50万全部これにつかったん?」

「ああ、そうだ」

「アホちゃうん……?」

「え……?」

「Amazonoで買えばダンジョン探索者初心者セットって、5万くらいからでも揃うよ? これ、かなりの高級品やないん? 相場を知らんからって、無駄にいいもん買わされたなぁ、お兄ちゃん」

「えぇ……そうなのか……てかAmazonoで買えるのかよ……」

 

 まあ、ダンジョン探索者は命がけだ。

 別に高い防具や武器があって、損することはないだろう。

 銃の打ち方なんかも教わってきたしな。

 ちゃんとした装備があるに越したことはない。

 当面の間他に金の使い道もないし、ダンジョンに潜ればまた金はたまるだろう。

 

 ちなみに、俺が東京に行っていたあいだのダンジョンの水やりは、美玖に頼んであった。

 ダンジョンは、7階層ほどまでに成長していた。

 このまま100階層とかまで成長したら、さすがに怖い。

 それこそ、世界樹みたいになるんじゃないのか……?


「じゃあ武器もそろったことだし、さっそく攻略動画とっていこうか」

「そうやね。カメラもばっちりやし」


 ダンジョン配信用のカメラを、Amazonoで注文しておいたのだ。

 俺のうしろをドローンで自動追尾してくれる、ハイテクなカメラだ。

 これで、手を塞がないでも動画撮影ができる。


「よし、まずは第一階層のクリアから目指すぜ! 動画におさめて、このダンジョンの魅力をあますことなく探索者たちにアピールだ!」


 まあ、俺は他のダンジョンがどうなってるか知らないから、特色もなにもよくわからないんだけどな……。

 とにかく、いけるところまでいってみよう。


「くれぐれも、気を付けてね」

「ああ。もちろんだ」


 俺はダンジョンの中に入った。

 

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