第2話 埋蔵金


「うーん、やっぱこの家、俺一人で住むには広いな、広すぎる」


 じいちゃんの家は、木造の古い家だけど、田舎にあるのでかなり広かった。

 ばあちゃんはとうの昔に他界しているし、もう誰も住んでいる人はいない。

 じいちゃんのいたころはお手伝いさんもいたようだが、それももう過去のことだ。

 

 庭も、庭といっても、小高い山なんかがあったり、田んぼにつながってたりして、かなり広い。

 庭には井戸や池まである。

 この中から埋蔵金を探せっていったって、地図があるとはいえ、かなり大変だぞ。

 そりゃあ、これまで誰も埋蔵金を掘り当てなかったのもうなずける。

 これだけの敷地の中から埋蔵金を探し当てようと思ったら、地図があっても一苦労だ。

 俺はさっそく倉庫からスコップを取り出してきて、作業にとりかかった。


「これ、どこまで掘ればいいんだ……?」


 もうかなり掘っているが、いっこうにそれらしきものは出てこない。

 俺ももう歳だし、腰が痛い。

 俺ももっと若ければ、こんな穴掘りくらいどうってことなかったんだけどな。

 

 俺が庭でそんなどんちゃん騒ぎをやっていると、通りがかった地元の人たちが怪訝な目で俺を見てくる。

 ここは田舎だし、人も少ない。俺のような見知らぬオッサンが、庭を掘り掘りしてるなんて怪しすぎるもんな……。

 とりあえず、怪しまれないように挨拶する。

 中には声をかけてきて、俺のことを覚えてくれている人もいた。

 俺がまだ小さかったころ、よくじいちゃんの家に遊びに来てたからな。

 オッサンになったとはいえ、俺にはまだ子供のころの面影が残っているようだ。


「おやぁ、あんた踪弌そういちちゃんかいね。おっきくなったねぇ……」

「いやぁ、どうも。祖父が生前はお世話になりました」

「お庭の手入れかいね。がんばってねぇ」


 近所のおばあさんと、そんな会話をする。

 田舎はすぐに噂が広まるから、俺がじいさんの孫だってことはすぐに知れ渡るだろう。

 これで、なんとか通報されずに済みそうだ。

 そうやって俺が日がな一日中庭に穴を掘り掘りしていると。

 遠くのほうから、俺のことを熱心な目で見つめてくる女の子がいた。

 女の子といっても、たぶん高校生くらいの子だ。

 爽やかな制服を身に着けて、俺のほうをようすをうかがっている。

 もしや、俺もこんな田舎では数少ない男tおいうことで、モテ期到来……!?

 生まれてこのかた、女子高生に見つめられた経験なんてない。


「そうちゃんお兄ちゃん……?」

「え……?」


 すると女子高生は、俺のことをお兄ちゃんだとか呼び出した。

 そして、庭の壁を乗り越えて、こちらへ駆け寄ってくる。


「やっぱり、お兄ちゃんやんね?」

「は……? いや、俺にこんな可愛らしい女子高生の妹はおりませんけれど……」

 

 俺は困惑してしまう。

 妹なんかがいた記憶がない。

 妹どころか、女の人との接点が皆無なのだから。


「いややわ、お兄ちゃん。可愛らしいなんて……って、そうじゃなくて! 私、美玖みく! 覚えてへん? 鞘河さやがわ美玖!」

「はぁ……? 美玖……?」


 たしかに、その名前には聞き覚えがあるな。

 あれは10年ほど前……。

 俺が20代だったころだ。

 祖父の家に遊びにきていたときに、よく近所の小さい子供といっしょに遊んだりしていた。

 鞘河さやがわ美玖、彼女はそのころ、まだ小学生になるかならないかってくらいの年齢だった。

 俺が暇してたもんで、一緒にボール遊びでもしてやってくれと、美玖の祖母から頼まれて、一緒に遊んだりしたっけな。

 って、この目の前の美人女子高生が、あの鞘河さやがわ美玖……?


「お、お前……マジで美玖なのか……? だとしたら、大きくなったなぁ……」

「そりゃあ、もう女子高生ですから。ていうか、そういうお兄ちゃんもオジサンになったやんね」

「うるせぇ……歳はけっこう気にしてるんだ……」

「あはは……ごめんごめん。でも、感動の再会やね? こんなところで何してるん……?」


 それにしても、驚いた。

 あの小さかった女の子が、今やもう女子高生か。

 時が流れるのははやいものだな。

 それにしても、美玖超美人すぎるだろ……。

 ギャルっぽいイマドキのJKとは違って、なんだろうか、田舎のJKだからか、すごく清楚な感じだ。

 それでいて、活発さもあって、実に健康的。

 ポニーテールがよく似合っていて、太陽のような笑顔で見ているこっちも青春の気分に引き戻されそうになるというか……。

 とにかく、美玖はみちがえるほどに成長していた。いろいろと……。


「俺は、埋蔵金を掘ってるんだよ」


 美玖には、隠すことでもないかと思い、正直に話す。

 埋蔵金ときいて、美玖はピンとこないようで、顔にはてなを浮かべた。


「埋蔵金……? って、なにそれ?」

「死んだ爺さんの遺言でな。遺産が庭に眠ってるそうなんだ。それを今、掘ってる」

「へぇー! なにそれ! めっちゃ面白そう!」

「そうかぁ? 退屈なだけだぞ……? 第一、本当にあるのかも、もはやあやしくなってきた」


 昨日からずっと掘っているのだが、いっこうにそれらしきものは出てこない。

 先祖代々伝わるとはいえ、どこかで誰かがすでに掘り出してるとかって可能性もあるだろう。

 それか、そんなものはもともとなかったか。


「でも、おじいちゃんがあるって言ったんやろ? だったら、きっとあるよ! あるはずやよ!」

「そうかぁ……?」


 やけにじいさんへの信頼があついな。


「なんか面白そうやし、私も手伝う!」

「は……? え……?」


 すると、美玖は泥だらけの庭に、ずかずかと入ってきた。

 制服が汚れたりするのも気にせずに、スコップを手に取り、庭を掘り出した。

 はぁ……さすがは田舎の子だなぁ……?


「助かるっちゃ助かるけど……なんも見返りとかはないぞ?」

「うん大丈夫、期待してないから。ただ、お兄ちゃんともっといっしょにいたいし、手伝わせて?」

「お、おう……」


 なんかそんなこと言われると照れるな。

 俺、そこまで美玖に慕われてたのか?

 とにかく、二人で掘るとけっこうはかどった。

 美玖は田舎の子だからか知らないが、かなり掘るスピードもはやかった。

 俺みたいな都会っ子のくたびれたオッサンよりは、美玖のほうが役に立った。

 そうしてしばらく二人で掘っていると。


 ついに、それらしきものが出土した。


「でたぁ……!」

「これ!? ほんまにあったんやね!?」


 それは、漆塗りの木箱だった。

 厳重に、何重にもひもがくくりつけられている。

 俺たちはそれを一個ずつほどいて、中身を空けてみる。

 すると、そこに入っていたのは、埋蔵金などではなく――。


「なんだこれ……?」

「種……?」


 なにかの種だった――。


 それはなにかの種だった。

 といっても、異常に大きい。

 一粒で箱めいっぱいに入ってるほど巨大な種だ。


「なんだ……これ……?」

「これが、埋蔵金……?」


 俺たちは互いに顔を見合わせる。

 はぁ……正直言って、がっかりだ。


「……な、わけねぇよなぁ……。くそ、騙された気分だ……」

「で、でも……! これが先祖代々伝わる遺産だってのは、間違いじゃないんやない?」

「うーん、誰かがすでに埋蔵金を掘り出して、代わりにこれを入れたのかも?」


 とにかく、金じゃないならがっかりだ。

 こんなお化け種子ひとつあっても、なんの足しにもならない。


「ねえお兄ちゃん、これ……なんの種なんだろう?」

「さあな。しらない。いずれにしても、ただのゴミだろこんなの……」

「で、でも……おじいちゃんが残してくれたものなんやんね? やったら、試しに植えてみるってのはどう?」

「うーん、これをか……?」


 正直、嫌な予感しかしない。

 こんな得体の知れない作物植えて大丈夫なのか?

 庭に植えてあるほかの植物がダメになったりはしないだろうか。


「おじいちゃんのことやから、きっと意味のないものは残さないと思うんよ。これ、ためしに埋めてみたら、なにかにはなるかも……!」

「そうだなぁ……」


 だから、なんで美玖はそこまでじいさんの肩を持つんだろう。

 まあ、せっかくだから植えてみるか。

 他に、使い道もないしな。

 俺は金が手に入らなかったはらいせに、とりあえずそれを埋めてみることにした。


「これでよしっと……」


 とりあえず掘り起こしたところに種を埋めて、水をやってみる。

 あとは、いったいどんなお化け植物が育つのか、みものだな。


「埋蔵金が出なくてすまなかったな。無駄だったろ」

「ううん、そんなことないよ。お兄ちゃんとおれて楽しかったし」

「そっか……じゃ、またな」

「うん、また種のようす見に来るね」


 そういって、美玖は家に帰っていった。

 美玖の家は、ちょうどこの家の裏だ。

 さあて、なんだかおかしなことになったもんだな。

 俺はこれから、どうしようかな。

 職がなくなって、完全にこの埋蔵金をあてにしてたからなぁ。

 とりあえず住む家はここにあるけど、貯金もいつまで持つかわらないぞ。

 とりあえずは、この種のようすをみながら、のんびり暮らすか。

 俺もいろいろと、疲れているしな。


 そして翌日。

 俺は起きて、庭に出て、とんでもないことが起きていることに気づく。


「ななななななななんじゃこりゃあああああああああああああ!!!!」


 俺の声は思った以上に大きかったようで、ちょうど裏の美玖のところまで聴こえていたようだ。

 まだパジャマ姿の美玖が、裏庭からとんでくる。


「ど、どうしたん!? お兄ちゃん……!?」

「み、美玖……! こ、これ……! 見てくれ……!」


 なんと、昨日種を植えた場所。

 そこには、ダンジョンができていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る