ダンジョン・ゴールドラッシュ✨~ダンジョンに興味がない無気力なオッサン、先祖の埋蔵金掘ったらダンジョン出てきたのでとりあえず配信してみる。普通に攻略してただけなのに、なぜか不本意ながらバズって困ってる

月ノみんと@世界樹1巻発売中

第1話 プロローグ


 俺の名は矢継早やつぎばや踪弌そういち、しがないサラリーマンだ。

 ちなみに年齢は35歳。彼女いない歴=年齢の平凡な、萎びたオッサンだ。

 給料も上がらないのに、毎日毎日仕事ばっかで、うんざりするような日常を暮らしている。

 ま、そんなの俺に限らずたいていの日本人はそうだよな。

 だけど、ちまたではダンジョンだとかっていうのが人気みたいだ。

 特に、若者のあいだで。

 最近動画サイトなんかで、ダンジョン探索者とかっていうのがバズってるのをよく見る。

 

 俺みたいなオッサンには、関係のない話だがな。

 まあ、俺ももっと若ければ、彼らのように、そのダンジョンとかってのにうつつを抜かしていたのかもしれない。

 だけど、今の俺にはそんな流行りの動画を事細かにチェックするような時間も、気力も残されちゃいなかった。

 毎日毎日家と会社の往復に疲れて、それどころじゃない。

 ダンジョンで大当たりして、一財産築いたというような話も聞く。

 まあ、非常に景気のいい話でけっこうなことだが、こっちは現実を生きているんでね。

 もう俺くらいの年になったら、そんな夢も追いかけてられない。

 現実的に、仕事をコツコツとこなして、堅実に生きることしかできないのさ。


「ダンジョン……ねぇ……」


 俺は電車に揺られながら、車内の電子公告に目を向ける。

 そこには煌びやかに華々しく、キラキラとした雰囲気のダンジョン広告が踊っていた。

 もはや、俺とは無縁の世界だ。

 若いヤツはいいよな。ダンジョンなんかに夢みられてよ。

 そんな不安定な職業、俺には考えられない。

 そんなことを思いながらも、内心では俺は彼らダンジョン探索者に憧れや嫉妬に近い感情を抱いていたのかもしれない。


 そんなうだつが上がらない毎日を過ごしていた俺だったが、ある日、飛んでもないことが起きる。


「はぁ……!? リストラァ……!?」


 なんと、俺は突然会社から首を斬られてしまった。

 上司がやらかしたへまの責任を、全部俺になすりつけられた形だ。

 会社の経営もやばくなってるらしい。

 俺が会社をやめざるを得ないのは、当然のことなのだそうだ。


「マジかよ……いきなりそんな倒産の危機って……」


 ダンジョン探索者を不安定な職とか言ってたのはどこのどいつだ。

 サラリーマンだって、急に職を失うことだってある。

 この世に絶対安心な職業なんて、どこにもないのだ。


「すまないねぇ矢継早やつぎばやくん、次の職場でもがんばってくれたまえ」

「はぁ……」


 部長のやつ、簡単に言ってくれるぜ。

 このご時世、そう簡単に次の職場なぞみつかるわけがなかろうて。

 俺はもう35だ。今さら、まともな会社に再就職なんかできるのだろうか。

 俺はそれからしばらくの間、仕事を探し回ったが、ろくな仕事はみつからなかった。

 とにかく貯金を切り崩す毎日だが、それもいつまで続くかわからない。


「はぁ……宝くじでもあたってくれないかなぁ……」


 職なし彼女なし、金もない。ほんと、惨めだ。

 今まで必死に働いてきて、まじめに社会人やってたつもりだったんだけどな。

 急に、引きこもり高齢ニートと同じような境遇になってしまった。

 こうなったら、サラリーマンもニートも変わらねえな。


「これからどうすっかなぁ……いよいよとなったら、もう首をくくるしか……」


 そんなことを考え始めたころだ。

 不幸には不幸が重なるもので――。


「はぁ……!? じいちゃんが死んだ……!?」


 母からの電話によると、俺の最愛の祖父が死んだとのことだ。

 俺の祖父、矢継早やつぎばや総代そうだいが鬼籍に入った。

 そして、祖父は遺言状を残していたのだそうだ。

 そこには、俺にあてたメッセージが書かれていた。


「とりあえず、あんたにあてたものだから、中身はみてないけど」


 母はいう。


「とにかく、そっちに送るから、あとはあんたが確認して」

「うん……わかったけど……」


 なんか、遺言状が送られてくるらしい。

 遺言状は、ほどなくして届いた。

 そこには、こう書かれていた。


踪弌そういちよ。わしが死んだら、お前に渡そうと思ってたものがある』

「なんだよじいちゃん……」


 ぐすん、と少し涙ぐみながら、俺は続きを読む。


『我が矢継早やつぎばや家には、代々伝わる伝説があるのじゃ』

「伝説ぅ……?」

『伝説の巻物によると、本家の庭には埋蔵金が埋まっておる。それは誰もまだ掘り起こしていない。だが、もしわしが死んだとき、これをお前に託そうと決めておったのだ。巻物を倉庫で見つけての。お前はなにかと心配をかける子じゃったから、せめてこれをお前に……』

「じいちゃん……」


 なんと、じいちゃんは俺に埋蔵金を残してくれたらしい。

 遺言状の最後には、その地図らしきものが載っていた。

 本家ってことは、じいちゃんちの庭ってことか。


『ついでに、わしからはじいちゃんの家をお前にやろうと思う。庭の埋蔵金ともども、どうにかお前の人生に役立ててくれ』

「じいちゃん……ありがとう」


 俺はちょうど、職も失って困っていたところだ。

 そこで、じいちゃんからのこんな手紙……。

 正直、埋蔵金とやらが本物だったら助かる。

 これで俺も、なんとか死なずに済むかもしれない。

 金さえあれば、俺もどうにか生きられる。

 じいちゃんありがとう、埋蔵金は決して無駄にしないよ。

 それに、家もくれるというんだ。

 なにかに役立てよう。

 とりあえず、俺は職もないし金もないので、東京の部屋を引き払い、その足でじいちゃんの家のある京都に向かった。




★★★★★★★★★★★★★★★


【あとがき】


もし少しでも――


「面白い」

「続きが気になる!」


と思っていただけたら。

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