第3話 ダンジョン


「こ、これって、ダンジョンだよな……?」

「う、うん……たぶん」


 そこにはダンジョンが出来ていた。

 ていうか、ダンジョンって種からできるものなの……!?

 通常、この世界にあるダンジョンは、急にある日、なんの脈絡もなく出現するものだ。

 こんなふうにダンジョンが種から生えてくるなんて、きいたこともない。

 いったい、どういうことだ……?


「これ、かなりめんどくさいことにならないか……?」

「まあ、そうだね……国に届け出とかもいるんかも……」

「だよなぁ……はぁ……」


 これなら、まだ何の意味もない種のほうがましだったかもしれない。

 庭にダンジョンができるとか、クソめんどうにもほどがある。

 ダンジョンというのは、こうやって誰かの家の庭に突如現れたり、道路の真ん中や、公園に現れたりする。

 公道や公共施設に現れたダンジョンは、国の所有物ということになるのだが。

 一般の民家の庭に出来たダンジョンは、その家の人が持ち主ということになるのだ。

 ダンジョンはさまざまな資源をもたらしてくれる。

 だから、庭にダンジョンができた万歳なんてふうに喜ぶひともいる。

 ようは、宝くじに当たったみたいなもんだな。

 だけど、ダンジョンってのはいいことだけじゃない、いろんな面倒ごともセットなのだ。


「じいちゃんの埋蔵金って、これのことなのか……?」

「かもね……」


 やっぱあのじいさんのことだから、ただの種ではないような気はしていたけど。

 まさかダンジョンができる種だったとは……。

 埋蔵金っていうか、埋蔵ダンジョンじゃねえか。

 まあ、ダンジョンは金のなる木みたいなもんだし、あながち間違っちゃいないか。


 だけど、庭にダンジョンができるとはめんどうだ。

 ダンジョン探索者たちが家に来たら、落ち着いて茶も飲めない。

 国への届け出だってめんどうだしな。

 ダンジョンを管理するのは、その所有者の仕事でもある。


「これ……どうすっかなぁ……」

「せっかくだし、中に入ってみる……?」

「だよなぁ……恐ろしいが……それしかないよな……」


 じいさんの残した埋蔵金がこれだというのなら、中に入らないわけにはいかないだろう。

 おそらく、この中にまだ、秘密がある。


「よし、入ってみよう……。なにか危険があるといけない、まずは俺ひとりで入ってみる。美玖はここで待っていてくれ」

「あ、うん……気を付けてね」


 ダンジョンというのは、様々な形のものがある。

 基本は塔の形、それから地下に続くもの。

 今回のこれは小さいが、塔の形をしている。

 というか、ほぼ木のような見た目だ。

 やはり、そこは種から生えたからだろうか。

 そして入口には、ポータルのようなものがある。

 この中に入るのか……恐ろしいな。


「えい……!」


 俺は意を決してポータルを潜り抜けた。

 中に入ると、目の前に文字が表示される。


【埋蔵金ダンジョン――F1】


「うお……これが噂の……」


 ダンジョンの中に入ると、こういったステータスやシステムメッセージといった、文字が目に見えるようになるのだ。

 ダンジョンの中で必要な情報が、逐次こうやって目の前に文字として浮かび上がる。

 これは、ダンジョンの中に一度でも入ったことのある人間にだけ見える文字なのだという。

 文字が見えるようになることを、ダンジョン探索者の間では洗礼とかっていうらしい。


 そして、俺が中に入ったことが原因で、なにかが起動する。

 なにやら魔法陣のようなものが地面に浮かび上がり、その中から、妖精のような生き物が現れた。


「うお……!? 敵か……!?」


 手で払いのけようとするも、妖精には触れることができなかった。

 どうやら、敵というわけではないらしい。


「あなたは、矢継早やつぎばや踪弌そういちさんですね?」


 すると妖精は、いきなり俺にそんなふうに話しかけてきた。

 この妖精、しゃべるのか……。


「あ、ああ……たしかに俺は矢継早やつぎばや踪弌そういちだが……」

「ずっとあなたを待っていました。私は先々々々々々々々々々々々代の守護妖精だったものです」

「おお……長いな……それで、このダンジョンはなんなんだ……?」

「これは、ご先祖からあなたへの遺産でございます。いわゆる埋蔵金というやつですね。ダンジョンは金のなる木ともいわれていますから」

「おおう……やっぱりそうなのか……」


 結局、じいさんの言ってた埋蔵金ってのはこのダンジョンのことだったんだな。

 それにしても、ダンジョンは金のなる木って、それ大昔から同じこと言われてるんだな……。

 てか先々々々々々々々々々々々代っていつの時代だよ……?

 戦国時代とかか……?

 そんな大昔からダンジョンってあったのか……?

 俺の知る限りでは、ダンジョンがこの世界に現れたのは、2000年代初頭のことだ。

 だから、そんな大昔にダンジョンが存在するなんて、思えない。

 少なくとも、俺の知る歴史とはまた違う世界が存在するようだ。

 この世界には、まだ俺たちの知らない謎が存在する。


「でもダンジョンなんかもらっても、俺どうしたらいいか……。俺はもうオッサンだし、今さらダンジョン探索者シーカーになんてなぁ……」


 まあ、探索者にならなくても、このダンジョンを管理して、管理者として儲けていく選択しもあるけど。


「大丈夫でございます。このダンジョンは、踪弌そういち様のための、特別仕様のダンジョンとなっておりますから」

「特別仕様……?」

「このダンジョンは、超初心者向けの新設設計となっております。なので、踪弌そういちさまのような初心者でも、安心して攻略できるのです。それに、今このダンジョンはまだ第一階層しかありません」

「そういえば、塔のダンジョンにしては低いなと思ってたんだ……」


 第一階層しかないダンジョンか、それってダンジョンっていえるのか?

 たしかにこのダンジョンの外観は、2階建てのビルにも満たないほどの大きさだった。

 でも、それがどう安心につながるんだ?


「このダンジョンは、日々成長していくダンジョンなのです。踪弌そういち様は昨日、このダンジョンに水やりをしておられましたよね……?」

「お、おう……」

「そうやって育てていくことで、このダンジョンは階層が増えます。そう、このダンジョンは成長するダンジョンなのです!」

「ど、どういう仕組みなんだそれ……」


 水をやって成長するダンジョンって、それもうまんま作物じゃねえか。

 そんなおかしなダンジョン、きいたこともない。

 基本的にダンジョンというのは、一度出現したらその中身は変わらないものだ。


「なので、ダンジョンの成長と共に、踪弌そういち様も強くなっていくことができるのです! これが、ご先祖さまからの遺産ということになります……!」

「なるほどな……俺専用の初心者用ダンジョンってことか……たしかにこれなら、俺でもなんとか攻略できそう……かも……」


 ダンジョン探索者になれば、うまくいけばかなりの年収になるだろう。

 それに、庭に俺用のダンジョンがあるということは、いちいち高額なダンジョン攻略費用をはらわなくて済むというわけだしな。

 ダンジョンを解放して、攻略費用をせしめれば、さらに儲かるだろう。

 たしかに先祖からのプレゼントとしては、これは埋蔵金にも劣らない。


「だけどなぁ……やっぱりいきなりダンジョンを攻略しろとか言われもな……」

「それも大丈夫です! そのために、私、ダンジョン妖精シロンがいますので!」

「そうなのか……?」

「これより、踪弌そういち様のために、ダンジョン講習を行います! 講習を終えたころには、踪弌そういち様もみごとな一人前のダンジョン探索者になられていることでしょう!」

「いや、まだ探索者になるなんて言ってないんだがな……」


 まあいいだろう。

 せっかくだし、その講習くらいは受けてみよう。

 俺は、妖精にいわれるがまま従うことにした。

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