第5話

 夏休みの図書館が閉館し、次は夏休み明けまで乾君に逢えないと寂しい気持ちになっていたお盆前、クラスラインで花火大会への誘いがきた。

乾君は参加となっていたのを見て、一目見るチャンスと私は迷うことな参加することにした。


 女子達は皆で浴衣を着て行こうという話になった。

母に着付けて貰って、遊びに来ていた従姉妹のサチ姉に髪を結って貰った。サチ姉は美容学校へ通っているので、薄化粧もしてくれた。

いつもと違う自分に動揺し、少しでもデフォルトの自分へと慌てて眼鏡をかけようと手を伸ばしたが、それはサチ姉によって遮られた。

「今日くらいは、コンタクトにしなよ。持ってるでしょ、入学の時に買ったやつ。」

「ええ、なんか、恥ずかしくて・・・」

「ダメダメ、今日は絶対コンタクト。」

半ば強制的に眼鏡を没収され、私はコンタクトにした。


 待ち合わせ場所に着くと、親友の優奈が

「あれ?栞奈かんな、今日眼鏡じゃないじゃん。いいね、カワイイ♪」小さい声で言った。幼なじみの彼女は私があがり症なのを知っていて、敢えて小さい声で言ってくれた。

でも他の子にも気付かれて「栞奈ちゃん眼鏡じゃないじゃん。可愛い~」

一斉に皆が、こちらを見た。

注目を浴びることが苦手な私は、動揺していた。


 そんな時、明るい声が

「あれ!女子達全員浴衣なんだ。お祭りって感じで良いじゃん。」

声の主は乾君だった。一瞬で皆の興味が個人から全体へ移った。

私はホッと胸をなで下ろした。

偶然かもしれないけど、彼の人柄に救われた気がした。


 屋台も出て、花火までの時間をりんご飴や射的など楽しみながら歩いた。

私は慣れない下駄に苦戦していた、気付くと鼻緒で指の間が擦れて血が出ている。

その頃には痛過ぎて、皆から遅れ始めていた。私はトイレに行くと言って抜け、石段で休んでいた。

正確には近くのコンビニまでは距離があり、絆創膏を諦め座りこんでいたのだ。

壮大な溜息をつき顔を上げたとき、私の前に急につむじが見えた。

「はい、足出して、絆創膏貼るからさ。」

声と柔軟剤の匂いで乾君だと気付いた。

「えっ、なんで?乾君?」

「いいから、座って。もう完全にアウトでしょ、足。なんでこんなになるまで我慢してたかなぁ。」

「いいよ、自分で貼るから。」

「良いから、早く足だして。」

私は恥ずかしいが、勇気を出した。彼は自分の膝に私の足を乗せ、絆創膏を貼ってくれた。

「ありがとう。」私は少し俯いて、言った。


 その時、大きな音と共に夜空に花火が上がった。私は焦って彼の背中を軽く押し

「乾君、皆が待っている早く行って。私はゆっくり行くから大丈夫。」と言った。

「三木、お前もう少し危機感を持て。こんな夜に浴衣の可愛い子が一人でいたら、もうそれは襲って下さいって言ってるようなもんだぞ!

大丈夫だ、花火に魅入って俺の不在に気付くヤツなんていないって。」

今度は連続して花火が上がる。

彼は私の耳に顔を近づけ

「ここからでも見えそうだ、座ろうぜ。」と言った。



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