第3話

 それから彼はよく図書館に来るようになった。

いつも決まって体調が悪そうな時にやってきて、奥の人通りの少ない通路にしゃがみ込んでいた。私は気が気でなかった、いつか彼が倒れてしまうのではないかと思って。

不安で何度も彼に寄り添った、出来ることは背中を擦るくらいだけど。

決まって彼は少し笑って私を見て、少し掠れた声で「大丈夫だよ。」と言った。

そんな彼の笑顔を見ると、私は心を鷲掴みにされたような気持ちになった。



 窓の外、蝉の鳴き声が夏の到来を告げていた。

そんな夏休みの図書館に乾君は良よく顔を出した。体調が悪くないのに図書館に来る彼はいつもと違う一面を見せた。

彼は決まって窓際の席に座って勉強をしていた、勉強に飽きると休憩がてら図書館の本を見て、また勉強。どれだけ図書館が好きなんだと私は笑った。

少し日に焼けた彼は以前より元気そうに見えた。ただその割に発作の回数が減らないことに私は不安を感じた。


 この頃になると私は乾君の発作が収まる迄の間、背中を擦りながら『本』との思い出話をした。大方は祖母との思い出話だった。


 ある日ふと小さい頃に、図書館で出逢った小さな男の子のことを思い出した。

その子は、受付けの女性に紙を渡して本を探して欲しいと頼んでいた。

女性は少し調べてから、貸し出し中だと告げ予約を進めた。

しかしその子は、「次に、いつ来られるか分からないのでいいです。」と悲しそうに答えた。その姿が本当に悲しそうで、私は気になってメモを盗み見た。

それは私が先程、貸し出しの手続きをした本だった。

本好き同志を見つけたようで嬉しくなった私は、すぐに図書館の女性に申し出て彼に本を譲った。彼はとても嬉しそうにお礼を言って帰った。


 この話には後日談があった。私がその後のその本を借りたとき『ありがとう』のメモと四つ葉のクローバーの栞が挟まっていた。きっとあの男の子だと思い私は栞を大事にしまった。

そうだ!この話もいつか乾君にしてみよう。

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