第15話
私は慌てて救急車を呼ぼうとスマホを出した。
震える手で上手く番号が押せない、音声機能でなんとか電話が繋がった。
「〇〇高校の校庭の校舎横のベンチにいます。彼が発作を起こして、早く来てください。」
救急車を待つ間にも彼の顔色はどんどん血の気を失っていく。
『神様、もう少し時間を下さい。』と祈りながら彼を抱きしめていた。
サイレンの音が近づいて来る。
彼の手を握りしめ。
「救急車来たから大丈夫だよ。」
碧は私の手を握り返したが、力が入らないようだ。
苦しげな表情で言った。
「栞奈、『ここまで』だ。救急車には俺一人で乗る。」
「嫌よ、私も行く。」
「駄目だ、約束だろ。」
私はポロポロ涙を流しながら、首を横に振り続けた。
「嫌だ、だってここで離れたら、、、」
「笑って、栞奈。最高の笑顔を見せて。俺がいつまでも覚えていられるように。」
そう言って彼の手が優しく私の頬に触れた。私は彼にキスをした。
「ごめんな、栞奈。」
救急車が到着した。救急隊員が碧をストレッチャーに乗せた。
「同乗されますか?」と聞かれたが、彼が
「俺一人で大丈夫です。」と答え、私に「じゃあ」と少し腕を上げた。
私は精一杯の笑顔で「待ってるね。」と手を振った。
救急車を見送りながら、本当は分かっている、きっとこれが最後なんだと。
でも悲しい別れは、彼が望んでいる最後ではない。
私にできることは、彼が思いを残さず旅立てるよう、笑顔でいることだっけだった。
その後、彼の携帯は何度電話しても「電源が入っておりません」とアナウンスされるだけだった。
私はできるだけいつもと変わらな日々を過ごした。
彼が何処かで見ているかもしれない、彼に悲しむ私の姿は見せたくない。
そんな思いだけで日々を過ごしていた。
新学期が始まった。
担任が「皆に残念なお知らせがあります。乾君が冬休みの間に家の事情で転校しました。乾は皆に挨拶できずに残念がっていたぞ。」
と伝えた。
私は初めて彼は二度と手の届かない場所へ行ったんだと実感した。
その日はどうやって家に帰ったかも覚えていなかった。
部屋に入るなり、私は泣き崩れた。
もう二度と逢うことができない愛しい彼のことを思い、泣き続けた。
分かっていたはずなのに、最初から。それでも別れの準備なんてできなかった。
彼のくれたネックレスだけが、彼の痕跡だった。
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