第16話
あの日から数か月どう過ごしたのかよく覚えていない。
気が付けば蝉が鳴いていた。
彼は自分の痕跡を最小限にしていたので、一緒に映った写真すらない。
私に残されたのはネックレスとSNSの履歴だけだった。
それから私は図書館の司書になるため大学受験の準備を始めた。
必死で勉強した、勉強していると無心になれたので丁度良かった。
そして現在、あの冬から十年が経った。
私は地元の図書館で司書をしている。
図書館にいると彼との思い出が色あせず、彼の存在も色あせない気がしていた。
父の転勤で実家の両親は引っ越し、私も実家を出てワンルームマンションで一人暮らしをしている。
碧以上に愛せる人なんて見つかるはずもなく一人でいる。
いつか彼と行った図書館で働けるようにと、募集待ちをしながら日夜勉強に励んでいる。
あの後、彼の両親に連絡し、お墓の場所を教えて貰った。
何度も足を運ぼうとするけれど現実を受け入れる準備はできていなくて、まだお墓参りには行けない。何処かで元気にしていると思いたかった。
ここ最近、寒波襲来で雪がちらつく日が続いている。
明日は数十年に一度の大雪だと言う、ちょうど明日が約束の十年だ。
奇跡は起こらないと分かっているのに、どうしても心がざわついた。
朝目覚めてカーテンを開けると、そこは一面の銀世界だ。
十年前の今日は彼と最後に逢った日。
彼は来ないと分かっているのに、自然と学校へ向かっていた。
あの日と同じように、新雪を踏みしめ歩いた。
学校に入ると、一瞬で十年前へ引き戻された。
一緒に雪だるまを作ったことが昨日のことのようにリアルに思い出せるのに、現実は私一人でいる。自然と涙が頬を伝う。
前から人影だ、こんな早朝誰だろう。警備員かな?私は怒られるのを覚悟で人影に近づいてくるのを待った。
警備員ではなく男性だった。背が高く、どことなく雰囲気が碧に似ている?
「三木栞奈さんですか?」
「ええ、貴方は?」
「俺は新田祐大です。碧の幼馴染です。」
「碧の?」
「何から話せばいいか、少し長くなりますけど良いですか?」
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