第8話

 あの日から乾君は、図書館に来なくなった。

元々教室では私達は言葉を交わさない、唯一の接点だったのが図書館だ。

彼を失った喪失感が日々私を悩ます。

私は何度も教室で話しかけようとしたが、彼は視線さえ合わせてくれない。


 そんなある日私は大事にしまっていた、四つ葉のクローバーの栞を出した。

ベットに横になり、栞を眺めながら、あの時の男の子のことを思い出していた。

彼には、あの後会うことが出来なかった。薄っすらと記憶にあるのは、深く被ったCAP帽と笑った時の八重歯だった。


栞は四葉のクローバーに菫の花も押し花してあって、若草色の栞ひもがついている。

見ているだけで作った人の優しい心に触れたようで心が温かく、勇気が出てきた。


少しでも自分を奮い立たせたくて、今読んでいる本に栞をそっと挟んだ。


 今日こそは乾君を捕まえて話をしたい、私はいつもより早く家を出た。

教室の前で深呼吸をして扉を開けた。扉の向こうには誰もいない。

乾君の席にはカバンが掛かっている、登校はしているようだ。

机の上には読みかけの本が無造作に置かれている。

ふと違和感を覚えた、彼はこんな本の置き方はしない。本をとても大事にしている彼だから。


 私は不安に駆られ、とにかく人が立ち入らない場所さ探して学校中を走った。

そうだ!屋上に続く階段は、肝心の屋上の扉に鍵がかかっているため人がほとんどい来ない。必死に走ってやっと、扉の前でしゃがみこんでいる乾君を見つけた。


 私はそっと彼の横にしゃがみ、背中を擦った。

彼は伏せた顔を一瞬上げてこちらを見た、私を確認すると少し安心したかのように小さく笑ってまた顔を伏せた。


 しばらくして落ち着いたところで、私は勇気を出して言った。

「もう、何も聞かないから傍にいてもいい?私の知らないとこで一人で苦しまないで欲しいの。」

「ありがとう、もう大丈夫だ。俺のことは放っておいてくれ。三木にこれ以上は干渉されたくない。」彼らしくないない乱暴な言い方だった。

そして私に背を向け去っていった。


 私は彼の綺麗な金髪を見送りながら、あれが本心なら良いのに。

でも、本心でなければ、私は最悪の事態を覚悟しなければならない・・・



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