エベの物語⑨

 陰府の底に架けられた、錬鉄で編まれた橋は、暗い陰府の風を受けながらほのかに暖かく温もりを発しておりました。

 紅玉の周りを行き交う有翼有角ガルゴーヤの声が殷殷と耳に届きます。

 有翼有角ガルゴーヤは人よりも遥かに強靭に造られたため、羽を持つ者は飛び、鰭を持つ者は泳ぎ、腕を持つ者は掻いて、陰府の大気の中を自在に動き回ることができるのでした。


 御堂もまた橋と同じ錬鉄で造られており、それが橋と同じく地の神の御手によるものである証しなのでございました。

 柱から床、壁に天井まで、葉薊はあざみの文目で隈なく覆われた御堂の中心に御座があり、手首と足に穴を持つイエスさまがあらせられました。


 あなたは金曜島イラ・ディヴェンドレで死んだマリアだね。イエスさまが言われました。


 はい、わたくしは金曜島で死んだマリアでございます。


 あなたがたを呪い、死に至らしめ、陰府へ呼んだ者たちがいる。大勢の中からひとりを選び、ここに来てもらった。そこを見てごらんなさい。


 イエスさまは御堂のひとところを示されました。何もないかのように見えます。しかし、御堂の錬鉄の床には、天からの光が物に遮られて落ちる影がくっきりと映っているのでした。紅玉を通して赤く染まる光は、御堂の中だけは白い色を保ったまま、わたくしどもを照らすのでございます。姿は見えなくとも、影を差しているその人がわたしに言いました。


 わたしはコナクリのジブリルだ。

 きみが金曜島のマリアであり、彼がナザレのイエスであるように、コナクリのジブリルだ。


 きみたちは埋められたわたしたちを掘り起こし、これを弔ったね。弔いの言葉を述べ、油を注いだ。

 きみたちは、わたしたちを攫い、殺した者たちのやり方で、わたしたちを弔った。

 だからわたしたちはきみたちを呪い、陰府に喚んだのだ。わたしたちの肉を、わたしたちの流儀で弔わせるために。

 きみの前に来た男、シムウンには弔いの言葉を教えた。きみには弔いのための歌を奏でてもらう。


 コナクリのジブリルは弔いのための歌と、それを奏でるための笛の作り方をわたしに教えました。わたしは笛の作り方と吹き方を覚え、コナクリのジブリルは言いました。


 ナザレのイエスに訊いたが、きみたちは地の魂を濯ぎ天へ昇ってから、数えて九度生まれ、九度死ななければならない。

 それらをすべて終えたのち、きみたちはまたあの島へ戻る。そこできみはわたしが教えた歌を吹き、わたしたちを弔わなければならない。

 一度で終わらせてはならない。

 日と星の巡りを数え、一年ひととせの巡るたびに、きみたちはわたしたちを弔わなければならない。

 一年に一度ずつ、きみたちが笛を奏で歌を歌うごとに、わたしたちのひとりの魂が正しく弔われ、喜びと共に縛められた地を離れ、風の中へと歩むだろう。

 二百五十八の魂を弔うそのときまで、正しい弔いをやめてはならないよ。

 わたしのこの言葉は、わたしひとりのではない、二百五十八人の言葉なのだからね。


 わたくしが頷くと、コナクリのジブリルの影は去り、イエスさまは香油の瓶を取られました。

 薔薇の香りの油が注がれ、わたくしの地の魂が陰府の下、地獄の下、地の神の御許へと濯がれてゆきました。

 そうしてわたくしは陰府を抜け、九重ここのえの輪廻を巡るべく、天の神の御許へと昇って行ったのでございます。

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