エベの物語②
暮れ時で、暗い森の上には燃える夕焼けが架かり、物の影がみな黒々と伸び、森の陰に沈んでいました。
村のはずれを流れる川幅いっぱいに、大岩のような黒塗りの船が浮かんでいました。
入口の前に黒い服を着た背の高い男の人が立ち、わたくしたちを出迎えました。
彼は白髪の神父様ではなく、もっと若い、わたくしたちの父と同じか、少し若い年ごろに見えました。
神父様ではないぞ、と誰かが言い、実は、神父様がこう言った、とこの人が言ったのを、自分は聞いたのだ、とジャンは言い訳しました。
男はエフライムと名乗りました。
その隣には、泥のような黒い肌で、鼻と唇が腫れたように大きく、牛のような眼をした男が立っておりました。
男は上着を脱ぎ、胸も腹もあらわにしているので、顔に泥を塗っているというのではなくほんとうに全身が黒いのだとわかりました。
わたくしは初めおののきましたが、彼は十字を切り、自分はシムンであると名乗り、わたくしたちの村の言葉で挨拶をするので、わたくしや、わたくしの後ろに隠れていた子供たちも、シムンに親しみました。
みなが乗り込むと、黒い船は滑るように川面を進んでいきました。
暮れ時で、暗い森の上には燃える夕焼けが架かり、物の影がみな黒々と伸び、森の陰に沈んでいました。
船に乗った村の子供たちは甲板に通され、故郷の景色が流れていくのを眺めました。
村の外れの櫓が、森の中に点々と立って、夕焼けの中へ細く伸びているのを見送りながら、ああわたしは今から大司祭ジャンの国へ行くのだと思いました。
日が沈み、月が昇り、シムンはわたしたちを船室に通して、蕎麦入りの大麦のパンと牛らしい味のする干し肉と木の器に注いだワインを配りました。
エフライムが船出に乾杯と言い、みな唱和しました。
一日が終わりました。
日が昇ると、わたしたちは青い海にひらけた大きな港町におりました。
そこに一度留まり、長旅に必要な物を積み込んで、いよいよ大司祭ジャンの国へ旅立つのだとエフライムは言いました。
大人の背丈ほどもある木箱が次から次へと船に吸い込まれていきます。
日の光の下で見た船は、これまで村で見たどの船とも違っていました。
まるでノアの船のように大きいとシムンに言うと、ノアのように何十日も水の上を旅するにはノアのように大きな船を作る必要があるのだと彼は答えました。
積み荷を終えるとエフライムは村の子供たちを集めて、船旅の間は昨日通した船室になるべく留まっておくこと、また自分たちのいる場所には錬金術や怪物についての危険な本や物が置いてあるから入ってはいけないこと、を言い含めました。
わたしたちが通された五十人分の寝台(それはわたしたちの倍の数でした)のある船室は甲板のすぐ下にあり、積み荷が運び込まれたのはそのずっと下の空間であるようでした。
船室を出て少し船尾の方に行くと、そこはもうエフライムたちの空間で、船のほとんどは立入ることができないということになります。
その広い空間に、わたくしたちと同じく拐かされた子供たちが詰め込まれていたのでした。
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