エベの物語⑥

 七日に一度アンナの説教を聴き、日々祈りを捧げ、歌を歌いながら、わたくしどもは村を切り開いていきました。


 石畳をご覧になったでしょう、あれもわたくしどもが拙いなりに大司祭ジャンの国のそれを真似ようとしたものなのでございます。



 シムンは一番の力持ちでしたので、本当によく働いてくれました。


 木を切り倒して、枝を切り払い、枝を彫って十字架を作り、余った材を彫り救い主や救い主の御母堂の似姿を作るのでした。


 この似姿はわたくしどもの故郷の教会にあったものとは似ても似つかないものでしたが、シムンの故郷では皆これを拝んでいたと言います。


 そもそも木でできた似姿などわたくしどもは見たことも聞いたこともございませんでした。


 粘土を焼くにせよ、石を彫るにせよ、適した道具もなければ、腕を持った者もおりませんでした。石工の息子のジョゼフはまだ十歳でした。


 わたくしと同い年のマリアとジョルジュがシムンと一緒に十字架を作り、みなに配りました。




 南の島の日射しは、シムウンを除いて二十九人の肌を灼き、赤く腫れさせました。


 とりわけマルタンと三人の子供たちはひどく痛むようでした。


 そしてまた、服のあちこちに刺す虫が入り込んで食いつき、悩ませました。


 ある朝、ギヨームとベルナール、マルタンと同じ幕屋に住んでいた子供たちですが、小川の底に溜まっていた泥を団子にして投げ合い、泥まみれになって遊んでおりました。


 服も汚してしまい、マルタンは怒りましたが、昼にさしかかったころ、ふたりは肌が日に焼かれず、痛まないことに気付きました。


 島の土は赤く、水で溶いて練るとよくのびました。


 私たちの村の子供たちもいっしょになってこれを塗り、痛くないとうけあいました。


 しかも泥には虫除けの効果もあるようで、服に潜る虫の他に、飛んで刺す虫も、泥を塗ると近寄らなくなりました。


 ジャンとアンナが、以後金曜島イラ・ディヴェンドレでは体中に泥を塗り、裸で過ごすこと、エベとアダムのように暮らすことを提案し、受け入れられました。




 村は切り拓かれていきました。


 アントーニャとジャンの間に子供が生まれ、マールタと名付けられました。アンナが洗礼を施し、ナオミと名付けました。


 わたくしとシムンの間にもふたりの子供が生まれました。男の子の双子でございました。かわいいジャンとジョゼフ。アンナはジャコブ、アロンと名付けました。




 あれはジャンのおしめを取り替えていたときのことでございます。


 シムンが幕屋に戻り、さめざめと泣きだしました。


 村を広げるべく、森を新たに切り拓いていたところでございました。


 彼は手にしていた古めかしい木の彫り物を見せました。 シムンの作る似姿に似ていますが、しかし彫り方が違っています。


 シムンはわたくしの手を引いて外に連れ出しました。村の外れにジャン、ジョゼフ、アンナ、マルタン……みな集まっておりました。


 下草を掘り起こし、手頃な大きさと形の石を小川から取ってきて、石畳にする作業の途中でした。


 下草を根こそぎにするため土を掘っていたのでした。


 その土の下に、いったいどれほどの数があったのでしょう、数えきれないほどの人の骨、骨、骨が、あの木の彫り物と共に埋まっていたのでございます。


 恐ろしい眺めでした。髑髏の大きさを見るに、そこには大人も子供もひとまとめにうずめられているようでした。


 大穴が掘られ、その中に多くの人、人、人、その亡骸が投げ込まれていたのでございます。


 一体いつの頃になるものか見当もつきません。周りを掘り返してみると、かなりの範囲に人の骨が埋まっているようでした。


 わたしたちが初めに突き当たった骨の山は、ごく一部に過ぎなかったのでございます。


 肉が落ち、白い骨だけが赤土の中に残り、暗く冷たい土の下に閉じ込められていた……


 髑髏の形を見て、マルタンが言いました。これはみな黒人ネグルの頭骨だ。

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