1925年4月8日③

 きっと地獄は塹壕に似ている。


 少なくとも、地球上で最も地獄に近い場所は、故郷から遥か遠く、仏独国境地帯に展開した長い長い四年間の塹壕だった。


 フランス中から若い命が集められて、うち百四十万人が国境に伸びる細長い穴ぼこの列とその脇に構えられた機関銃陣地の間のどこかしらに呑まれて消えていった。


 砲撃に脚を捥がれたことはそれほど大きな痛みではない。塹壕にふたりの息子をらっし去られたことに比べれば。




 エベであるマリアは死せる魂は陰府il limbesに行くと言った。


 彼女が言う陰府は静謐に満ちていて、それはきっと神学者達が倦むことなく議論してきた幼児の辺獄limbus infantiumに近いことだろう。


 かわいそうなジャン=ジャコブ、ジョゼフ=アロン、マールタ=ナオミ、ジュリ=ルト、マルタンもアンナも、静かな陰府で来世を待っているに相違ない。


 しかしあの、人を食い潰し、銃弾で磨り潰して已まない地の裂け目は。


 辺獄les limbes


 地獄の周縁limbus gehennae

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