LIMBES
1925年4月7日④
エベであるマリアは、ヨーロッパにいた自分たちがこの島……
エベであるマリアは矍鑠としていても非常に高齢であり、長い時間活動することは難しいことは見て取れた。
ともあれまだ昼過ぎであった。昼食まで頂いて幕屋を出ると、同じく食事を終えた子供たちが裸で広場に出て、石畳の上に寝転がっていた。
昼寝の時間なのだという。だいたい三十分ほど日を浴びてから幕屋に戻ると体に良いという。
石畳の上に筵を敷いて転がっている、子供たちも例外なく泥を塗りたくっており、彼ら自身芋のようにも見える。
こっちに来いと手招きしている。アブラムも行けばいいと手振りで示す。促されるまま私は幕屋に入った。
私と同年代か、少し年下くらいの女である。やはり全身裸で、泥を塗りたくっている。
髪はやや癖があり、鼻もそう高くはない。アダムであるシムウンの家族と同じく、黒人の血を引いているようだ マグダレナと名乗った。
マグダレナは私の身体を、というより服をひとしきりじろじろと眺めてから、それを脱ぐようにと言った。
素焼きの壺を引き寄せて中に手を突っ込む。暗い幕屋の中でぬらぬらと光る赤黒い泥が、マグダレナの乾いた手にまといついて姿を現した。
脱ぎなさい。
――拒否する。
ローマではローマ人がするように。
――しかし……
服は汚さない。約束するよ。
仕方なしに服を脱ぎ、筵の上に畳んだ。
ペトラ!
すると幕屋の裏から、二十に満たないだろう若い娘が入ってくる。
こちらは鼻筋がよく通っており、瞳は緑柱石のようである。白皙に載った赤い泥が痛いほどだ。
娘は筵で服を包んで幕屋の隅に置き、マグダレナは両手をまっすぐ上にあげるように言った。
気は進まないが「金曜人のように」と言われれば仕方がない。
女は垂れ下がった胸に泥を塗りつけると、私の胸にぴたりと密着した。
手は背中に回り、首筋から肩甲骨、背筋、脇腹、尻へと、赤い泥を塗り広げていく。
胸は上下左右に動き、泥を垂らした乳房が胸板や腹を這いまわる。
ひととおり塗り広げたところでマグダレナは体を離した。
泥を手につぎたし、横にいる娘に向かって言った。
女は血を集めて膨れ上がった陽物を片手間にゆびさし、満足げな目でそう言って憚らない。
生命の危機ゆえに混血女にも反応しているのか、裸で密着すればこうなるのは自然なのか。
娘、ペトラは自分の筵に腰を下ろして、師であるらしいマグダレナと私とを取り澄ました顔で見ている。
マグダレナは自分の腿に赤い泥を塗りたくってから、
と私の陽物を根元から掴み、先端まで無造作に扱きあげ、全体に冷たく赤い泥を揉み込んだ。
熱を帯びている陽物も、総身に泥をかぶってしまえばひとたまりもない。
見る間に萎れていく陽物を見て、マグダレナは豪放に笑った。
割礼されていない皮を引き延ばして、マグダレナは先端を紐で括りつけた。
――これで泥が付いているうちは使えないだろう?
全身に泥を塗り終えてから、マグダレナはそんなことを言った。
日が沈まないうちは交わらない、というのが
泥は島全体を成す赤土を水に溶かしたものだから、決して貴重なものではない。
夜になれば小川に泥を落としに行って、同時に一日の汗を流し、焚火を囲んでその日の成果を語らい、子供たちが早くに眠れば夫婦は肌を合わせて互いに交わるのだという。
マグダレナとペトラは
日が落ちると、アブラムが迎えに来た。小川で泥を流し、めいめい焚火を囲む。石畳の広場に、櫓を中心として方々に焚火を設けて、複数の家族が一緒に食事をとる。
司祭のマグダレナが櫓に昇り、銅鑼のように響く声で食前の祈りを捧げた。
アーメン
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