転生魔女、逆ハー狙いの転生聖女から国を救います
瀬里
少女、この世界を知る
この世界の在り方に気づいたのは、七つの時だった。
前世の記憶をもって転生したサアヤは、ラノベによくある王女や貴族令嬢としてではなく、ある村の農家の娘として三人兄妹の末っ子に生まれた。
村娘といいながらも結構可愛い容姿をしていたので、周りに勇者になりそうな男の子がいないかちょっと期待してしまったけれど、そんなことはもちろんなくて。
この世界がどんな世界かは分からないけれど、とりあえず自分の立ち位置が主役級のそれでないことだけはすぐに悟り、のんびり暮らせそうなことにむしろ安心して日々を送っていた。
自分を可愛がってくる優しい父母と兄達が大好きだったし、人の悪意にさらされることのない長閑な田舎暮らしをサアヤはかなり気に入っていた。
そんなサアヤの唯一特筆すべき点と言えば、過去に読んだ本やゲームをただ見たり読んだりできるだけの他愛もないスキルを持っていることだった。お金のかからない読書は、農家の娘の生活に潤いを与えてくれる最大級の娯楽だったから、サアヤは暇な時にはスキルを使ってそれらを純粋に楽しんでいた。
男に騙された前世の苦い記憶から、大きくなったら一度くらい男を手玉にとるような経験をしてみたいとか、せっかく異世界に転生したんだから、もっとおいしいものを食べたり珍しいものを見たりしたいとは思っていて。
早く大きくなってこの小さな村を出ていく日を心待ちにしている、そんなほんわかと温かい毎日だった。
村の片隅に住む農家の小さな子供が知ることのできる世界はとても狭くて、サアヤは、スキルで読むことのできる話と現実の世界に接点があるなどとは思いもしなかったのだ。
けれど、ある日それが一変する。
村によくやってくる行商人が時々子供向けに紙芝居をしてくれるのだが、その話がサアヤの知っている話によく似ていたのだ。もしかして、とサアヤは小さな心臓を大きく震わせた。
『ねえ、おじさん。これは本当にあった話なの?』
『そうだよ。二十年前だけど、この国で本当にあった話なんだ。今の王様とお妃さまの話だよ』
『そうなんだ。ひょっとして、この王様の子供の王子様って、**に**できるの?』
『はははっお嬢ちゃんは想像力が豊かだなあ』
周りの友達にも突飛な発想を馬鹿にされ、予想は違ったのだとその時は笑いあって終わりになった。
けれど、その夜、両親は帰ってこなかった。
数日後、傷だらけで帰ってきた両親は、想像したことを人に話してはいけないと、サアヤを抱きしめながらそれだけを告げた。母はその日以来足が不自由になり、サアヤは母の代わりに懸命に家の手伝いをするようになった。
行商人が何者で両親が誰に何をされたのか、真実はわからない。
ただ、これだけは分かった。サアヤがスキルで知ったことは「現実」で、ただの平民が知っていてはいけないことだったのだ。
サアヤは、自分の生まれたこの世界は、決して安穏とした楽園ではなかったことをを知ってしまった。
それ以来、ひたすら口をつぐんで過ごした。
だが、サアヤが再び口を開かなければならないことが起こってしまう。
サアヤの住む村から三つほど離れた国境の村で、隣国との小競り合いが始まったのだ。
隣国に対し、上流に当たるその村が川に毒を流したことが原因だった。
けれど。
――違う。そうじゃない。それは誤解なの。
サアヤはその「物語」を知っていたのだ。
それはある**の物語。
小さな**により**が起き、国中が*****。
多くの民が**、******国から*****。
****の、*****への物語。
村の上役に必死に伝えようとするが、もちろん、村娘の言葉に耳を傾ける者はおらず、サアヤはその日、村に来ていた魔女に売られるように連れていかれた。
以来、故郷へは帰ることはなかった。
――生まれ故郷であるその国が滅んだのを、サアヤは、遠く離れた異国の地で知った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます