休日に布団を被ったまま、あるいはあえて、喧騒の満ちるカフェでコーヒーを片手に読んでもいいかもしれない。
とにかく、スマホやパソコンでは足りない。
主人公のセラやトニヤ、彼らを取り巻くキャラクターたちの語る言葉には重みがある。これはたぶん、地の文に対して会話文が極端に少ないからなんだろう。
それゆえに、心にすんなりと沁みいってくる。先を読めば読むほど、物語が進むほど、彼らの言葉の重みが増してくる。一言一言に彼らの感情が乗っている。たしかに伝わってくる。決して僕の気のせいではないはず(笑)
情景描写や心理描写に関しましては、その叙情豊かな文章に、ただただ圧倒されます。事細かに描かれていますが、それでいて文章のリズム、テンポがいいので非常に読みやすくなっています。
作者様の練り上げられた描写は、半強制的にセラたちの世界へと連れていってくれます。
だからこの物語は、展開が遅いのがいいんです。ファンタジーとして静謐で、ゆっくりと真実へ向かっていくのが面白い。
読んでいるときの時間の流れがゆっくりに感じる。
切実に、文庫として読みたいと思わされたファンタジー小説。
まだ読んでおられない方、ぜひおすすめです。
精霊が見える少年、セラ。彼はその特質から森の住民に爪弾きにされ、孤独な生活を送っていた。セラの家族も、ある理由から冷遇を受けている。
ある日、セラは泉の畔で5年前に失踪した父の声を聞く。愛する父の声を追って森に分け入ったセラが出会ったのは、樹齢千年の巨木だった───
一章まで読了した時点での感想ですが、非常に完成度の高い物語だと思います。
森の風景と『命の森』が抱える秘密、父の失踪の謎、セラの孤独感や怒りなどが美しい文章で綴られ、特に森の秘密が明らかになる場面の描写は眼前に映像が迫ってくるようで、鬼気迫るものがあります。
愛する父の思いを受け、神聖なる大樹に火を放ったセラ。この先彼が辿る運命を最後まで見届ける所存です。
この作家さまの作品はとても読みやすく、そして間違いなく面白い。
昨今の流行りの異世界やゲーム世界的ファンタジーが苦手な方も楽しめる内容だと思います。全力でオススメします!
精霊が見える主人公は、敬愛する父を呑み込んだ樹を焼き払い、大事な家族を置いて旅に出た。しかしその体には、精霊の呪いと思われる文様が浮き出ていた。ところが危険な船旅の最中、凶暴な精霊から船を守ってくれたのは、文様だった。
大陸に渡った主人公は偏屈な精霊学者の弟子となる。しかしこの国は、身分によって住む地区が違うという特殊な造りをしていた。そしてある日、身分の最下層の人々が通う地区で事件が起こる。師の協力を得てその事件に関わったとみられる邪悪な精霊に遭うが、そこで主人公は不吉な予言を得る。
主人公はさらに大陸を旅し、精霊を王妃に据える国にやってきた。ここで主人公の体の文様は呪いではないことが分かる。その正体は——。主人公はこの国で王女の家庭教師をしながら過ごしていたが、自分を呼ぶ声を聴き、極北の民に会うために再び旅に出る。そんな中、主人公は義弟と再会。二人で故郷の村に帰ることを約束する。しかし主人公に待ち受けていたのは——。
決断を迫られる主人公が選ぶ未来とは?
主人公は全てを捨てて旅立ちます。もう、自分の帰る場所はないと思っていたところに、義弟がやって来て、また家族として暮らそうと懇願されるのです。壮大な世界観で描かれながらも、家族の物語であり、大事な人を大切に思い、行動する勇気の物語でもあります。
是非、是非、御一読下さい!
精霊の見える少年、セラ。しかしその力は決して彼を幸せにするとは限りません。
周りから奇異な目で見られることだってあります。そればかりか、その力故に色々あって、とある事件を起こし、住んでいる森にいられなくなります。
ネタバレ防止のため詳しいことは書けませんが、この事件というのが、実に考えさせられます。セラの住んでいた森の住人たちから見れば、許されざること。だけどセラの視点で見ると、その行いも納得。
なら読者としては、これをどう思うか。そんな疑問を抱かせながら、物語は次の場面に移行しますが、この時点でストーリーはまだまだ序章。
森に住めなくなったことでセラは新たに暮らす場所を求めて外の世界へと向かうのですが、精霊が見えるという彼の力は、そこでも彼の生き方に大きな影響を与えます。
精霊が見える。その力に運命を翻弄され続けるセラは、旅の果てに何を見るのか。そして、彼にとって精霊とはなんなのか。
悩める少年の、答えを求め続ける物語です。
森の中にある閉鎖的な集落に住む少年セラは、精霊を見ることができる。
しかしそれ故に人々から奇異な目で見られ、孤独を感じていました。
これはそんなセラ少年が森を出て世界を見て、自分の秘密について知っていく物語……なのですが!
この森を出る前に、セラはある大事件を起こします。最初読んだ時は、えっ、こんな展開になるのと驚きました。
そんな大事件を起こして森を出て行ったセラですが、そんな彼のことを心配したのが弟のトニアです。
このトニヤというのが実にいい子で、兄セラの起こした事件の真相、セラが何を思っていたかが知りたくて、彼を追いかけて旅に出るのです。
なんて美しい兄弟愛。
森を出た兄セラと、それを追う弟トニアの二人の視点で描かれる、家族の絆の詰まった異世界精霊ファンタジーです。
読了後のレビューです。
物語の始まりはとある森。
主人公は精霊と縁ある少年。
セラという美しい名前、それは物語が秘める儚さや尊厳に満ちた世界へと導く魔法のような響きです。
物語で描かれる温かな家族の繋がりや、彼らが秘める悲しみ……それらが力強く、時には繊細な文章で描かれています。
そして何よりも驚かされるのは、情景や空気、風や海の音が聞こえるような場面の描写力です。
多彩な登場人物達の個性や想いもまた、物語を色々と鮮やかに染めています。
主人公セラが何を思い、何を見ていくのか……命の重みや、【生きていること】その意味に触れることが出来る物語です。
骨太のファンタジー作品です。
精霊の存在は超常現象に近く、それでいて人々の生活にも密接しています。しかし普通の人には視認することができないという、一方通行の関係でした。
そんな世界において、なぜか主人公だけは精霊が見えます。
だからこそ彼は生まれ故郷の禁忌を破ってエルダーの木を焼くことになります。
この時点で、精霊は大いなる存在であっても常に正しいわけではない、というテーマが確立します。
さらにいえば、そんな精霊を利用して実りを享受してきた人間たちも必ずしも無実ではない、という表裏一体のテーマにもつながります。
主人公が冒険をするのは、この表裏一体のテーマに決着をつけるためです。
ネタバレになるので詳しく語れませんが、主人公の出生は物語のテーマに直結するものであり、人間と精霊の在り方をどうするのか天秤にかけるものです。
そんな壮大な背景を背負った主人公が、自分の秘密を知らないまま、生まれ故郷を飛び出して、外の世界に触れていきます。
世界中にある精霊と人間のつながりから、自分が何者なのかわかったとき、主人公は大いなる選択を求められます。
精霊と大自然と人間、これら共犯関係にある繋がりを維持するのか、それともたとえ大破壊が発生しても新しい秩序を求めるのか。
さらにいえば、もし共犯関係を維持することにしたら、自分自身が犠牲になることを受け入れないといけません。
主人公は血のつながらない家族である弟を通して、この究極の選択肢に悩むことになります。
はたして主人公は、どちらの世界を望むのか?
それを見届けるのは、このレビューを読んだあなたです。
命の森に暮らす15歳の本好きの少年セラは、精霊が見える。そのため、人々に蔑まれて孤独に過ごすことが多かった。
ある日、泉の畔で数年前に失踪したはずの父の声に呼ばれる。
声に誘われて辿り着いたのは、森の大樹だった。
子供が立ち入ることを許されていないその場所で、セラは森の大人たちがひた隠しにしてきた呪いの真実を知ることとなる――。
"少年は精霊を殺した。世界の片隅で紡がれてゆく命の物語"
というサブタイトルに惹かれて、この作品に出会いました。
内容も美しく残酷な部分もあり、それでも作者さまのお話の構成がブレることなく紡がれていて、読みがいのある作品になっております。
序盤の大樹の中に取り込まれ、その声を聞くシーンは印象的。神秘的でありながら、その恐ろしさに惹き込まれます。セラがなにを選び、どんな行動を取るのか・・・。
ぜひとも読んでみてください。
文章はかなり洗練されており、読みやすいです。
ただのファンタジーに物足りなさを感じている方、オススメです!
物語の主人公セラは、精霊の姿が見える特別な少年。
セラは訳あって森の精霊を殺し、家族と離れて、自らのルーツを探る旅に出ます。
深く悩み、傷つきながらも旅を続けるセラは、幾つもの不思議な体験をし、成長していきます。
知的でどこか陰のあるセラとは異なり、セラの弟トニヤは、純粋で素直な優しい少年。
トニヤは森を離れてしまったセラを探して、旅をします。
この物語は美しく残酷な世界観でありながら、心に染み入る温かさに満ちています。
それはセラの出会った人たちやトニヤが、愛に満ちているから。
旅をする中で出会う風景や、人々の息遣いが丁寧に繊細に描写されていて、世界観にすうっと引き込まれていきます。
神秘に満ちた、美しく切ない珠玉のストーリーです。
一話一話の読了後、心に染み入るような余韻がとにかく素晴らしい作品です。
ぜひご一読を♪
この物語を読むとき、いつも「絵本を捲るようだ」と思う。それほどまでに鮮明に、主人公セラの住む世界の映像が目に浮ぶ。
精霊の姿を見ることが出来るセラはいつも孤独で、家族にも本当の気持ちを話すことが出来ない。そんなセラはある日突然いなくなった父の姿を求め、精霊に導かれ大樹の元を訪れる。
この冒頭の物語だけで完結としていいほどのスケールに圧倒される。だが、物語はここからだ。
セラは壮大な旅にでて、幼い弟トニヤが兄を追う。
旅先で出会うユニークな人々、そのふれあいの中でセラとトニヤは成長していく。この物語には、家族愛や兄弟愛、そして少年の成長など様々な要素を含んでいる。
セラは求めるものに出会えるのか。彼の旅の終点はどこにあるのか。
端正な文章で綴られた壮大なファンタジー。絵本を捲るような美しさと、映画を見るようなスケールの大きさ。
この物語を読まないのは、勿体ない。是非多くの方に読んで欲しい!
物語は命の森から始まります。
主人公の少年セラには、両親と弟がいると思っておりました。
けれども、セラの存在には秘密が隠されていたのです。
そのセラは、父の支度した本をよくよみ、弟のトニヤが絵本に浸っているのとはまた異なりました。
この森と本の関係は、作者様の理想でしょうか。
また、読書好きの方々が読まれても憧れる所があると思います。
そして、セラには、皆に見えないレベルの精霊でもよく見えると言う能力を持ち合わせておりました。
父が失踪すると言う形で別れてしまったのですが、真実を看破し、本当の父を言い当てるシーンにも手に汗を握ります。
大樹がキーとなって、様々にセラは克己します。
それから、セラは森に別れを告げ、北へと出立いたします。
最初に着いたのは港町ロドリアでした。
親切な宿に泊めていただき、暫く働いた後、ありがたい縁もできて自身の運命に気が付きつつ海原へと出て行きます。
船でも学ぶことは多々ありましたが、私に何より強烈な印象を与えたのは、大きく荒れ狂う海の厄介者どもでしょう。
ひとつは大きな存在感を持つ精霊、もうひとつは釣り上げたら危険ではないかと思われる伝説的な魚でした。
厄介ではなく成長と呼ぶのでしょうが、同船した者達の顔ぶれが浮かぶようで、そのひとつひとつにはらはらしたり、インチキを覚えさせられたセラに俗っぽさを感じたりいたしました。
セラの成長は、ここでもみられたのです。
一方、その頃の弟トニヤの方ですが、母に誓って兄捜しの旅にと北へ向かいました。
そこは、奇しくもロドリアだったのですが、微妙に同じ境遇になってもセラとトニヤでは異なるのです。
それは、兄の背中を求めて海を行くに当たっても言えます。
何事も上手いように転がすのがセラで、トニヤは少しドジな感じがいたします。
しかし、トニヤもここでは終わらないと海の厄介者と出会って誓ったことでしょう。
かように、壮大な人間模様のドラマティックさとファンタジックな要素が上手く化学反応を起こした本作です。
大きく成長譚と括ってしまっては勿体ない気がいたします。
構成に無理がなく、拝読するに至っても分かり易くなっております。
設定をシンプルに持って来たことで、文字通り枝葉をつけるのにご苦労なさったと思われます。
けれども、作者様のご様子では、秀作を仕上げることに熱心で、微塵も感じられない程、努力を重ねているように推察いたします。
本作も作者様の地に足のついた文体で書かれており、大変好感が持てるものです。
推敲を重ねられ、改稿で大幅に加筆されたとのことですので、より重厚感が増したと思われます。
全ての過程はラストシーンを楽しみにする為に繋がっていることでしょう。
あなたの思い描くセラの幸福は、どんなマチエールでしょうか。
私には、檸檬色の潮風が吹いて来ます。
それは、セラに深く眠る真心の色に近いのかと思われます。
是非とも、セラがあれほど大切にした本を開くように、旅をしてみませんか。
真実がいつも美しいとは限らない。何が嘘で何が本当か、混沌とした時代の中にあってより一層身に染みる事実かもしれません。
この物語の主人公セラもその一人。精霊が見える15歳の少年がどこか大人びて見えるのは、人知れず孤独を抱えて生きてきたからでしょうか。ある時セラは失踪したはずの父の声を聞き――と物語は始まっていくのですが。
どこか悲しい余韻のする旅の始まりと、続いていく物語。流れるような映像と変化していく世界の中で、確かな息吹を感じ、空虚な心が満たされる心地です。
光と闇の入り混じるリアルな世界は綺麗なばかりではありませんけれども、それでもこの物語がどこか心に優しく響くのは、作者さまの人柄なのだろうと思います。
否定するでもなく正当化するでもなく、ただそこにある命を信じて慈しむように見守る。中々真似できることではないと思うのですが、そんな広くて優しい眼差しを感じました。
柔らかく透明感のある雰囲気に包まれて、セラたちと一緒に旅をするうち、いつしか抱えていた重荷を忘れて自分の心まで透き通っていくようで。
死んだことこそありませんが、もしかしたら鎮魂とはこういうことだろうかなんて思うこともありました。この物語に触れている時間は私にとって喜びそのものでありました。
残りの旅も大切に、一緒に見守りたいと思います✴️
精霊の姿を見ることができる孤独の少年、セラ。
命の森に暮らす彼は、ある日失踪したはずの父親の声に呼ばれる。
……というところから始まる壮大なファンタジーなのですが、特筆すべきは読めば読むほどに引き込まれる世界観でしょうか。
最初はたくさんの謎があり、主人公のセラとともに真実を解き明かしていく旅が始まります。
その謎が明らかになるタイミングが素晴らしく、真実を知っていく度に鳥肌が立ってしまうのです。
セラが出会う人々も個性的な人物が多く、まさしく一緒に旅をしている感覚になります。
皆さんもセラととともに真実を探す旅に出かけませんか?
重厚なファンタジーを味わうことができるおすすめの作品です。