セラと弟は精霊と北へ。ドラマティックさとファンタジックさの融合が素敵。

物語は命の森から始まります。

主人公の少年セラには、両親と弟がいると思っておりました。

けれども、セラの存在には秘密が隠されていたのです。

そのセラは、父の支度した本をよくよみ、弟のトニヤが絵本に浸っているのとはまた異なりました。

この森と本の関係は、作者様の理想でしょうか。

また、読書好きの方々が読まれても憧れる所があると思います。

そして、セラには、皆に見えないレベルの精霊でもよく見えると言う能力を持ち合わせておりました。

父が失踪すると言う形で別れてしまったのですが、真実を看破し、本当の父を言い当てるシーンにも手に汗を握ります。

大樹がキーとなって、様々にセラは克己します。

それから、セラは森に別れを告げ、北へと出立いたします。

最初に着いたのは港町ロドリアでした。

親切な宿に泊めていただき、暫く働いた後、ありがたい縁もできて自身の運命に気が付きつつ海原へと出て行きます。

船でも学ぶことは多々ありましたが、私に何より強烈な印象を与えたのは、大きく荒れ狂う海の厄介者どもでしょう。

ひとつは大きな存在感を持つ精霊、もうひとつは釣り上げたら危険ではないかと思われる伝説的な魚でした。

厄介ではなく成長と呼ぶのでしょうが、同船した者達の顔ぶれが浮かぶようで、そのひとつひとつにはらはらしたり、インチキを覚えさせられたセラに俗っぽさを感じたりいたしました。

セラの成長は、ここでもみられたのです。

一方、その頃の弟トニヤの方ですが、母に誓って兄捜しの旅にと北へ向かいました。

そこは、奇しくもロドリアだったのですが、微妙に同じ境遇になってもセラとトニヤでは異なるのです。

それは、兄の背中を求めて海を行くに当たっても言えます。

何事も上手いように転がすのがセラで、トニヤは少しドジな感じがいたします。

しかし、トニヤもここでは終わらないと海の厄介者と出会って誓ったことでしょう。

かように、壮大な人間模様のドラマティックさとファンタジックな要素が上手く化学反応を起こした本作です。

大きく成長譚と括ってしまっては勿体ない気がいたします。

構成に無理がなく、拝読するに至っても分かり易くなっております。

設定をシンプルに持って来たことで、文字通り枝葉をつけるのにご苦労なさったと思われます。

けれども、作者様のご様子では、秀作を仕上げることに熱心で、微塵も感じられない程、努力を重ねているように推察いたします。

本作も作者様の地に足のついた文体で書かれており、大変好感が持てるものです。

推敲を重ねられ、改稿で大幅に加筆されたとのことですので、より重厚感が増したと思われます。

全ての過程はラストシーンを楽しみにする為に繋がっていることでしょう。

あなたの思い描くセラの幸福は、どんなマチエールでしょうか。

私には、檸檬色の潮風が吹いて来ます。

それは、セラに深く眠る真心の色に近いのかと思われます。

是非とも、セラがあれほど大切にした本を開くように、旅をしてみませんか。

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