主人公の出生の秘密こそが、この世界の真理だった

 骨太のファンタジー作品です。

 精霊の存在は超常現象に近く、それでいて人々の生活にも密接しています。しかし普通の人には視認することができないという、一方通行の関係でした。

 そんな世界において、なぜか主人公だけは精霊が見えます。

 だからこそ彼は生まれ故郷の禁忌を破ってエルダーの木を焼くことになります。

 この時点で、精霊は大いなる存在であっても常に正しいわけではない、というテーマが確立します。

 さらにいえば、そんな精霊を利用して実りを享受してきた人間たちも必ずしも無実ではない、という表裏一体のテーマにもつながります。

 主人公が冒険をするのは、この表裏一体のテーマに決着をつけるためです。

 ネタバレになるので詳しく語れませんが、主人公の出生は物語のテーマに直結するものであり、人間と精霊の在り方をどうするのか天秤にかけるものです。

 そんな壮大な背景を背負った主人公が、自分の秘密を知らないまま、生まれ故郷を飛び出して、外の世界に触れていきます。

 世界中にある精霊と人間のつながりから、自分が何者なのかわかったとき、主人公は大いなる選択を求められます。

 精霊と大自然と人間、これら共犯関係にある繋がりを維持するのか、それともたとえ大破壊が発生しても新しい秩序を求めるのか。

 さらにいえば、もし共犯関係を維持することにしたら、自分自身が犠牲になることを受け入れないといけません。

 主人公は血のつながらない家族である弟を通して、この究極の選択肢に悩むことになります。

 はたして主人公は、どちらの世界を望むのか?

 それを見届けるのは、このレビューを読んだあなたです。

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