第16話

「母さん、僕ねぇ。一つだけ母さんにお願い事があるんだ」

 あおが真剣な顔になって、美琴に言った。

「あら、何かしら? 蒼の一つだけのお願い事なら、叶えてあげるしかないわね。言ってごらんなさい」

 美琴みことが言うと、

「あのね、僕ね、父さんと母さんと三人で一緒に暮らしたいんだ」

 もじもじしながら、美琴を上目遣いで見ながら蒼が言った。

「とっても素敵ね。そのお願い事。私もそうしたいわ。それをパパが望んでいるのなら、いつでもいいわ」

 美琴の言葉に、蒼の顔がぱっと晴れやかになった。

「それじゃ、決まりだね。それは父さんが一番望んでいる事なんだよ。今すぐ、連絡しよう。あっ、父さんスマホ持っていないんだ。研究所には固定電話もないし、宮沢さんも秋山さんもスマホは使えなくなっているし……」

 蒼が、独り言のように言っていると、

「僕が連絡しますね」

 武田が片岡に電話をした。

「すみません、片岡さん何度も。篠原教授はお目覚めでしょうか?」



 片岡は武田からの電話を受け、蒼が篠原教授と話したいと言う事を本人に伝えた。

「分かった」

 篠原教授が電話に出て、蒼と話をした。

「そうか、それで、母さんはいいんだな? それなら、三人で住む住居を用意しなければいけないな。こちらの準備が出来たら連絡する」

 とても重要な話しを、簡潔に済ませ電話を切った。


「篠原さん、あなたにかかった容疑ですが、どうやら、我々の勘違いだったようです」

 五十嵐はそう言うと、他の刑事らを連れて帰っていった。


「五十嵐さんったら、粋なことをするわね。でもこれで、篠原さんたち家族は、普通の暮らしが出来るわ。そうよね? 篠原教授」

「ああ、私もそれを望む。ところで、あなたは誰?」

 篠原が、今さらながら聞いた。

「あら、失礼したわね。自己紹介がまだだったわ。私、旭日出版の蓮宮玲子と申します。都市伝説、『麗しのフランケンシュタイン』を取材していて、今ここにいるんです」

 蓮宮が答えると、状況を知らなかった篠原、宮沢、秋山の三人は、ぽかんと口を空いたまま、言葉を失った。


 蓮宮が、都市伝説について手短に説明すると、

「ああ、そういうことになっていたんですね。確かに、美しい人造人間の蒼君に、私たちは運ばれたようです。それを見ていた人たちが、そんな噂を流したんでしょうね」

 宮沢が納得したように言った。

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