第4話

 蓮宮は、片岡を連れて警察署に入り、そのままいつものように刑事課の部屋へ向かった。

「蓮宮さん、その方は誰ですか? 部外者を勝手に連れて来てはだめですよ」

 声をかけてきたのは、若手刑事の河合だった。

「あら、ごめんなさい勝手に。彼女を紹介するわね」

 片岡を連れて、刑事課へ行くと、数人の刑事がいた。

「こんにちは。こちら、片岡瑞希さん。理工学部出身で、とても聡明な方です」

 蓮宮がそう紹介すると、どよめきが聞こえた。

「そんな知り合いがいたんですね。さすが蓮宮さん」

 若手刑事の羽山が、蓮宮への賛辞の声を上げた。

「五十嵐さんと、須藤さんはいないのね」

 蓮宮が言うと、

「今、外回りですよ。いつ帰って来るか分かりません」

 中年刑事の岩井が答えた。

「片岡さんに、人造人間を見てもらいたいの。いいかしら?」

 蓮宮が言うと、

「一応、身分を証明できるものを確認させてください。免許証か何かお持ちではないですか?」

 岩井が確認している間に、河合が蓮宮たちに、コーヒーを淹れて持ってきた。

「どうぞ」

 そう言って、コーヒーをテーブルに置くと、河合も蓮宮たちと向かい合わせに座り、

「片岡さんは人造人間に、お詳しいんですか?」

 などと、片岡に質問したが、

「生体を使った人造人間など、法的に認められません」

 と返され、口をつぐんだ。


「すみません、お待たせしてしまって。では、行きましょうか」

 岩井が戻って来て、河合はほっとしたようだった。


 人造人間は、遺体安置室で保管されていた。

「皮膚は生体を培養したものでして、腐らせないため、ここに保管してあります」

 安置室の温度は低く、岩井、蓮宮、片岡は防寒服を着ていた。岩井が人造人間を引き出しから取り出し台に乗せた。

 片岡は無言のまま、人造人間の体の隅々を確認している。胸から腹部まで縦に皮膚を切り開かれ、内部の機械が良く見える。頭部は頂点から後頭部まで開かれ、脳は透明な容器の中に収められていた。細い線が幾つもあり、それぞれどこかに繋がっているようだった。知識のない者には見ても分からない。蓮宮と岩井は、片岡と人造人間をただ見つめていた。すると、突然、人造人間の目が開いた。

「あっ」

 蓮宮は思わず、声を漏らした。一瞬驚いた表情を見せた岩井だったが、黙って見ていた。起きたと思った人造人間は、その後すぐに目を閉じた。

「充電切れのようです」

 片岡はぽつりと言った。

「電源はどこですか?」

 岩井が聞いたが、

「彼の個人情報ですから、申し上げられません」

 と片岡が答えた。

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