第5話

 片岡はその後、電子工学に詳しいという大学教授への協力を要請した。


「私の尊敬する教授です。あの方なら、彼の充電方法も分かると思います」

 電話で、今すぐ来てくれと頼んだようだが、相手は電話口でごねている様子だった。しかし、一時間後に、その教授は警察署へやって来た。


「お忙しい中、お越し頂きまして、大変恐縮です」

 中年刑事の岩井が、低姿勢な態度で言った。

「例のモノを見せてくれ。私は忙しいんだ」

 早速、気難しさを感じさせる、扱いにくそうな人物だと蓮宮は思った。

「どうぞこちらへ」

 教授といえども、身元の確認はしっかり行った。それに気分を害しているのもあるようだ。


 遺体安置室で人造人間を見るや否や、教授の表情が変わった。無言で身体の隅々を確認している眼は爛々と輝いている。誰も教授には声もかけられずに、ただそれを黙って見守っていた。

「実に興味深い。これは誰が作ったのかね?」

 教授が聞くと、

「分かりません」

 岩井が答えた。

「教授、警察はまだ、彼について何も分からない状況です。捜査は難航しているので、どうか、教授のお力をお貸しください」

 片岡が言うと、

「そうか、分かった。協力しよう。まずは彼を目覚めさせねばならないな」

 と教授が答えた。

「教授、充電方法は分かりましたか?」

「充電だって? 君は何を見ていたのかね? 彼の原動力は電気なんかじゃないだろう。原子力だ。よくこんなものを作ったものだね。しかし、どうしたものか。核燃料なんて、警察でもおいそれとは用意出来んだろう?」


「原子力って、大丈夫なんですか?」

 驚いた岩井が言うと、

「それは放射線による被爆を心配しているのかね? それとも、核爆発を心配しているのかね?」

 教授は質問で返した。

「両方です。そんな危険な物だなんて、誰も知りませんでしたよ」

 岩井が、人造人間の彼を物と言ったことに、教授はピクリと眉を動かした。

「まず、核燃料が漏れるほどの損傷はなく、その危険性も低い。かなり丈夫で安全な作りだと言えよう。次に爆発だが、それも今のところは大丈夫だろう。彼を故意に破壊しようとしなければな。司法解剖をしたと言ったが、機械部分を壊さなくて良かったな。その時点で、核爆弾を投下されたあの忌まわしい戦争と同じことが起こっていた」

 教授は平然と恐ろしい事を口にし、それを聞いた面々の表情は凍りついていた。

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