第14話

 腹が満たされた金光かねみつ教授は、さっそく、三人を目覚めさせた。最初に起きたのは宮沢だった。

「金光教授、やっぱり、見つけてくれたんですね」

 そう言ってから、宮沢は自分の身体の動きを確かめた。

「不具合の調整をしてくれたんですね。篠原教授を低温睡眠させてから、調子が悪くて、私にはどうにもならないので、冬眠しました。きっと、誰か来てくれると思っていました」

「それで、一体何があって、君の身体は機械化されたのかね? それを説明してくれるかね?」

 金光教授に聞かれて、宮沢はこれまでのいきさつを語り始めた。



 私は、大学を卒業後、原子力開発機構に就職しました。ある日、篠原教授から連絡があり、人の命を救うために、少量のウランが必要だと言われました。簡単に持ち出せるものではないが、篠原教授の必死さが伝わり、同僚の手を借りて、何とか持ち出すことが出来て、それを篠原教授に届けました。そこで、篠原教授が何をしようとしているかを知りました。死んだ息子を蘇らせたいと言う気持ちは理解できるが、そこにあるものは紛れもなく遺体だったのです。

 篠原教授は、息子が事故に遭い、身体の損傷が激しい事を話しました。身体に掛けてある布をめくると、目を背けたくなるほどひどいものでした。けれど、首から上は傷もなく、とても綺麗な顔でした。血の気が無く、白い肌に、長いまつげ、整った顔立ちは、吸い込まれそうなほどに魅力的でした。


 私は篠原教授に声をかけようとしましたが、何と言えば良いか、言葉が見つかりませんでした。篠原教授は、息子さんの損傷した身体を機械化して、その動力を原子力にすると言いました。それを私に手伝ってほしいと。もちろん、そんなことはしたくないので、断りました。たとえ、遺体が教授の息子であっても、遺体損壊は法に反する行為であり、神への冒涜です。人は死んだら終わりなんです。どうあがいても無理なものは無理だと。その時の私はそう思いました。ですが、教授は諦めませんでした。息子さんの脳に電気の刺激を与えると反応があり、少しずつ繰り返すと、脳が機能し始めたんです。その時、初めて、生きていると感じました。

 

 それから、篠原教授は身体を機械化する作業に専念し、私は、息子さんの脳をコンピューターに繋ぎ、彼の意識へとコンタクトを試みました。研究は順調に進み、ついに人造人間が完成しました。

 息子さんは、自分の口から言葉を発することが出来るようになり、少しずつ、機械の身体にも慣れてきた頃でした。秋山君がやって来たのは。突然で驚いたのですが、ここへ連れて来られてきた時、恐ろしくて、思わず助けを求めてしまったことを思い出しました。秋山君は必至の思いで私を探してくれて、救い出そうとしてくれていましたし、蒼君の身体も完成したので、教授に手紙を置いて、研究所を去る事にしました。


 迎えに来ていたミニバンに、秋山君と乗り込むと、すぐに出発しました。他に三人乗っていて、彼らは、秋山君の呼びかけに集まったのだと言う。研究所からは外灯のない山道で、しばらく走っていると、急に車が傾き、そのまま崖を転がり落ちました。気が付いた時には、研究所に戻っていました。隣には秋山君がいて、眠っているようでした。

 身体を動かそうとしましたが、まったく動きませんでした。見ると、胸から下は機械化されていて、皮膚もない状態でした。驚きましたが、声を上げる事も出来ませんでした。その後、またしばらく眠っていたようで、再び起きた時には、機械の身体は皮膚で覆われ、見た目には普通の人間のようでした。


 秋山君も同様に、機械化されて目を覚ましました。それからは、リハビリと調整の日々を過ごし、機械の身体にも慣れてきました。その頃、篠原教授の体調が良くなく、病院へ行くよう勧めたのですが、頑なにそれを拒みました。そのうち、病も進行し、止む無く低温睡眠してもらいました。私と秋山君も、そのうち不具合がどうにもならなくなって、低温睡眠を選択しました。

 蒼君が一人になってしまうので、心配だったのですが、母親に会いに行くと言っていたので、会えることを信じて眠りにつきました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る