第7話

 金光かねみつ教授の話しからすると、人造人間は篠原の息子の藁科わらしなあおの可能性が高い。

藁科わらしな美琴みことに身元の確認をさせよう」

 五十嵐が言うと、

「それは少し残酷ではないでしょうか? 人造人間の彼が生前の藁科蒼のままとは限りません。母親の心情に配慮が必要だと思います」

 片岡が言った。

「確かに片岡さんの言うとおりね。教授はどう思います?」

 蓮宮が金光教授に聞いた。

「私から彼女に連絡を取り、生前の写真を送ってもらおう。それより急務なのは、宮沢君の安否だ。早く見つけ出さなければならない」

 金光教授には、教え子の安否の方が気になっているようだった。


 刑事が調べた結果、分かったことは、宮沢の勤め先である原子力研究開発機構から核燃料を持ち出し姿を消したのは二年前で、核燃料紛失を隠すため、機構は表沙汰にはしていなかった。宮沢の捜索願も出さず、うやむやにしていた。同僚の職員たちも、口が堅く、情報はなかなか掴めなかった。

 しかし、匿名で話すことを了承した者がいた。その人物の性別も年齢も分からない。あるサイトから蓮宮にアクセスしてきた。


 私は以前、原子力研究開発機構で働いていた者です。名は答えられないので、仮にXとします。

 宮沢さんが尊敬する教授から、ある誘いを受けたことを教えてくれました。内容は詳しく話せないが、核燃料を少量必要だと言っていました。簡単に持ち出せるのもではないことも分かっていますが、それには人の命がかかっているのだと。必要な量はほんの少しでいいと言う事で、宮沢と私が核燃料であるウランを盗み出しました。宮沢は、それを持ったまま、消息不明になりました。

 私は協力したことを後悔しました。何か悪い事が起こっているのではないかと不安になり、その後、退職したのです。私にはウラン持ち出しの嫌疑もかかりましたが、正直に宮沢が持って言った事を話しました。私は何も咎められることはなかった。ウラン紛失も無かったこととされたのです。

 私はほっとしましたが、行方の分からない宮沢の事は心配だったので、いろいろ手を尽くして探してみましたが、見つかりませんでした。もし、彼が生きているのならば、もう一度会って、何があったのか聞きたい。私には、それを聞く権利があると思います。私が宮沢と連絡を取っていたアプリと、メールアドレスをここに書きます。どうか、宮沢を探し出してください。彼の所在が分かったら、以下のメールアドレスへご連絡ください。このサイトは一時間後に閉鎖し、すべて削除します。


 Xは何かに追われるかのように、強く警戒しているようだった。

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