第8話

 蓮宮はすみやは宮沢が使っていたアプリで、宮沢の痕跡を探したが、ヒットするものはなかった。すべて削除したのかもしれない。メールアドレスにメールの送信をしたが、即時エラーメールが返って来た。

「どれもだめだわ」

「連絡は取れないのか?」

 横から五十嵐が、蓮宮のパソコンを覗き込んでいる。

「ええ、頼りはXだけね。もっと詳しい情報を聞き出したいわ。会えないかしら?」

 そう言って、蓮宮はXにメールを送信したが、これもエラーが即時に返って来た。今は連絡を取りたくない。もしくは、連絡を取れないと言う事なのかもしれない。

「それなら、足で探すぞ。須藤、行くぞ。あんたはどうする?」

「私も行くわ」


 五十嵐、須藤、蓮宮の三人は、篠原の元妻である、藁科わらしな美琴みことの元へ向かった。


 藁科は実家で両親と三人で暮らしていた。そこは九州の田舎町で、のどかな場所だった。

「突然すみません。お呼び立てしてしまって」

 藁科美琴を、近くのファミレスに呼び出した。休日で家族連れも多く、賑やかな雰囲気だった。雑音に囲まれ、四人は隅のボックス席に座った。

「お話しって、何でしょうか?」

 硬い表情の藁科に、

「篠原を探しています。どこにいるかご存じありませんか?」

 五十嵐が質問した。

「知りません」

 一言そう答えて、藁科は口をつぐんだ。何か知っていると、五十嵐は直感した。

「そうですか。では、二年前のお話しを少しお聞かせいただきたいのですが、宜しいでしょうか?」

 五十嵐にそう言われると、藁科の表情が変わった。困惑しているのか、怒りなのか、悲しみなのか、何か嫌なものを見たような顔だった。

「お辛いとは思います。しかし、息子さんの身体がどこにあるか、それを知りたくはありませんか?」

「今、何て?」

 藁科の美しい顔が凍てつき、鋭い眼光で五十嵐を睨みつけた。

「ごめんなさい。直接的だったわね。私たちは知りたいの。篠原さんがどこにいるのか。失踪した宮沢さんが無事なのかを。だから、知っていることがあったら、教えて欲しいんです。篠原さんが優秀なのは、あなたもご存じでしょう? 息子さんの身体を連れて姿を消したその先に何があるのか、あなたには想像できたでしょう?」

 蓮宮は畳みかけるように言った。



 藁科美琴は、語り始めた。


 大学で篠原に出会い、彼の美貌に魅かれ、人柄を知り、恋に落ちた。しかし、恋は恋のままの方が美しいのだと。

 妊娠が分かると、二人は結婚し、あおが産まれ、幸せな暮らしが続くものだと思っていた。しかし、それは長く続かなかった。とても重要な研究が成果をあげる大事な時なのだと、篠原は家族との時間を無下にしたのだった。

 研究者でもあった藁科には、重要な研究は理解できていたが、心がそれに追いつかず、二人は別れる事となった。


 篠原は一段落すると、田舎へ帰った藁科と蒼に会いに行ったが、義父母からは門前払にあい、それ以来、会いに来ることはなかったという。


「彼は気の弱いところもあるんです。自分に負い目もあり、両親が強く彼に抗議して、追い返してしまったものだから……」

 とても悲しそうに藁科は言った。

「蒼を連れて行ったことは、衝撃的でしたが、不器用なところが彼らしいと思いました。たぶん、彼はここにいると思います」

 藁科は、スマホの地図アプリでその場所を示した。

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