第9話
三人は九州からとんぼ返りだった。
藁科が示した場所から、篠原は東京郊外の山中にいるらしかった。
「こんな場所に、何があるって言うんだ?」
地図アプリが示した場所の周りには何もなく、そこが山である事だけを示している。三人は須藤が運転する車に乗っていた。山道の途中までは舗装されていたが、目的地方面へ向かうには砂利道となっていた。
「この辺りは私有地のようですね」
須藤が言った。五十嵐は電話で、土地の所有者を調べるようにと誰かと話している。しばらく進むと、目的の場所であろう建物が見えて来た。こんな山奥には似つかわしくない、コンクリートで造られた無機質な建物だった。周囲を鉄柵で囲んでいて、門は閉じられていた。敷地の中には一台の車がある。藁科の情報から得た、篠原の車に間違いない。
「奴はここにいる」
「そのようですね」
五十嵐と須藤は、そう言うと、すぐには行動に移さず、車を木々に隠すように移動した。
「さて、どうするかな? 篠原には、二年前の息子の遺体を盗み出した容疑もあるが、今回は宮沢の失踪について、事情聴取とするか」
五十嵐は独りごとのように言って電話をかけ、捜査令状の発布を要請した。
一時間後、五人の刑事が合流した。
「五十嵐さん、令状です」
そう言って、令状を渡したのは五十嵐の部下の榊原だった。
「よし、俺と須藤は正面から行く。お前たちは周囲を包囲しろ」
「了解」
それぞれが配置に着くのを確認すると、五十嵐が正面の入り口の戸を二度叩いた。
玄関という感じはなく、呼び鈴もない。扉は鉄でできていた。硬い音が響いたが、人の気配は感じられない。
「篠原さん。いらっしゃいますか? 警察の者です。お伺いしたい事ありますので、ここを開けてください」
しばらく待ったが、中からの反応は無かった。もう一度繰り返し呼びかけたが、気配がまったくない。物音一つしなかった。
「こじ開けるぞ」
五十嵐がそう言うと、須藤はうなずいて、持ってきた工具箱を開けた。中にはドアをこじ開けるための道具が入っていた。頑丈な鉄の扉が破壊され、大きな音と共に倒れた。無線で他の五人にも状況を説明し、中へ突入した。そこは研究室のようで、奥には人が入った透明なケースが三つ並んでいた。
「こいつは一体?」
五十嵐が声を漏らした。
「コールドスリープですかね?」
須藤が答える。
「何だそれは?」
榊原たちも、そこへ合流し、不思議そうにそれらを見つめていた。
「触らない方がいいわ。これは作動しているようよ」
ケースの外側には作動中を示す緑色のボタンが点灯していて、近くにはコンピューターがある。
「きっと、彼らは待っているのよ。教授が来るのを」
蓮宮の意味深な発言に、まだ、皆の理解は追いつかないようだった。
蓮宮が金光教授に電話をしたが、電源が入っていないというアナウンスが流れた。
「仕方ないわね」
今度は、片岡に電話をすると、すぐに返答があった。
「蓮宮です。教授はそばにいますか?」
蓮宮が言うと、
「ええ、いますが、今は手が離せません。何かありましたか?」
片岡が、質問で返してきた。
「ええ、ビッグニュースよ。篠原さんと、宮沢さんが見つかったわ」
「篠原と、宮沢、それと、こいつは誰だ?」
五十嵐は三人の顔を確認していたが、もう一人、誰も知らない男がいた。
「さあ、誰でしょうね?」
須藤は、のん気に答えた。
電話を終えた蓮宮が、
「あら、決まっているじゃない。宮沢を救い出そうと呼びかけた、転載ブログの筆者よ」
当然のようにそう言った。
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