第10話

 五十嵐、須藤、蓮宮の三人は、現場から引き揚げ署へ戻った。榊原を含む他の五人の刑事は現場に残り、現状維持に努めた。


 五十嵐が見知らぬ男の身元を調べると、警察署のデータベースでその素性が明らかとなった。

 男の名は、秋山あきやま幸雄ゆきお、三十二歳、独身。人権保護団体に所属。二年前から行方が分からず、行方不明者届が出されていた。

「人権保護ね、繋がったわ。秋山が宮沢を救い出そうとしたのは、彼の使命感のためだったのね」

 蓮宮が言うと、

「それで、どうして、秋山があの場所にいたんだろう?」

 須藤が疑問を投げかけた。

「さあ、どうしてかしらね?」



 金光かねみつ教授と、片岡かたおか瑞希みずきは九州のとある大学にいた。そこには原子力の研究施設があり、そのラボで、藁科わらしなあおの身体に埋め込まれた小型原子炉の摘出を行っていた。放射線物質の暴露を防ぐための封じ込めと、爆発に強い設備が整っている中で、その作業が行われていた。

 数時間に及ぶ作業は無事に終わり、蒼の動力は電気へと置換された。身体を開いた傷は、綺麗に閉じられたが、まだその傷は生々しかった。

「しばらくは眠らせておこう。それで、誰からだったのかね?」

 金光教授は、先ほどの電話の事を片岡に尋ねた。

「蓮宮さんです。篠原教授と、宮沢さんが見つかったとの連絡でした」

 片岡は淡々と答えた。

「そうか。それは良かったと言うべきかな? それで、生きていたのかね?」

 金光も冷静に受けた。

「分かりません。ただ、見つかったという報告があっただけです」

 片岡の言葉に、金光はただ、黙ってうなずいた。


 藁科蒼の身体は、研究施設に預けたまま、金光と片岡は急ぎ、東京へと向かった。



 金光らは東京へ着くと、すぐに警察署へ行き、五十嵐から状況の説明を受けた。

「やれやれ。忙しいな」

 金光はそう言いながらも、口元は緩んでいた。話しを聞いただけで、篠原たちは生きていると確信したようだ。さっそく、金光と片岡を連れて、篠原たちがいる研究所の現場へと戻った。


「これから、彼らを目覚めさせる。悪いが君たちは出ていてもらえるかな? 助手は片岡だけで足りる」

 金光にそう言われて、片岡以外は研究室から出た。

「では、やるかね?」

 片岡に言うと、彼女は、

「はい」

 とだけ答えた。いつでも準備は出来ているようだった。


 それから数時間、蓮宮と刑事たちは車の中で過ごした。夜も明け、日が高く昇っていた。その間、交代で休憩、食事をとっていたが、研究所の中にいる二人は、食事も取らず、作業を続けていた。

「大丈夫ですかね? 中で二人とも倒れていないですかね?」

 須藤は教授たちの事を心配していた。

「研究者って、みんなあんな感じよ。疲れる事も忘れて没頭するんですって。でも、終わってからが大変よ」

 蓮宮が他人事のように言った。

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