第11話

 片岡から蓮宮に、電話で連絡が入った。

「終わったと連絡が来たわ。行きましょう」

 蓮宮と刑事たちが研究室に入ると、金光かねみつ教授はソファーに横になり、片岡は疲れ切った様子で椅子に座っていた。

「お疲れ様でした。ホテルに部屋を取りましたので、そちらでお休みください。ここの警備は我々にお任せを。何か、注意点等ございますか?」

 五十嵐が片岡に聞くと、

「彼らが目覚めた時、私たちがいた方がいいと思いますので、ここで休みます」

 片岡はそう答えた。

「そうですか。分かりました」

 研究所には生活スペースもあるようで、片岡は二階の寝室にあるベッドで休むことにした。



 九州に置いて来た、藁科わらしなあおはつい先ほど目を覚ました。

「ここはどこ?」

 蒼が目覚めた事を確認すると、一人の男性が、蒼のいる部屋を訪れた。

「やあ、目が覚めたようだね。知らない場所でびっくりしたよね? 大丈夫、安心して。僕は金光教授の教え子の武田たけだ晴斗はるとと言います。金光教授は知っているかい?」

 武田が聞くと、蒼は首をかしげながら、遠い昔の記憶を思い出そうとしていた。

「あっ、知っているよ。思い出した。父さんのお友達だね」

 蒼はそう言って、可愛らしい笑顔を見せた。

「そうそう、お友達。蒼君、傷口は痛まないかい?」

「うん。僕ね、痛覚つうかくはないんだ」

「そう、それならよかった。でも、傷口がくっつくまで激しく動いちゃだめだよ」

「傷口?」

 蒼はそう言いながら、服を着たまま身体を見ている。

「傷口は見ない方がいいよ。ショックを受けるかもしれない」

 武田は心配そうに言ったが、蒼は服の前ボタンをはずして、傷の確認をした。

「あ~あ。こんなに切っちゃって。僕また死んじゃったのかな?」

「ごめんね。死んだんじゃなくて、死んでいると思われたみたいだよ。蒼君、浜辺で倒れていたんだって。それで、死因の特定のために、司法解剖されちゃって……。あっ、これ、話してよかったのかな? 警察の情報だったかも。まあ、本人には知る権利もあるよね」

「まっ、いっか」

 蒼はあまり気にしていないようだった。

「僕は金光教授から、蒼君の事を頼まれていてね、目が覚めたら、色々お話しを聞いたり、君の要望を聞くことになっているんだよ。いろいろ聞いてもいいかな?」



 蒼はこれまでのいきさつを語り始めた。


 蒼が東京郊外の研究室で目が覚めた時には、何が起こったのか理解できなかった。自分が事故に遭い、それから記憶はなかった。けれど、目が覚めたと言う事は生きていたんだと思った。しかし、身体が自由に動かなかった。そばには男がいて、真剣な顔でコンピューターを操作している。何かのボタンを押すと、自分の身体が勝手に動いた。何やらブツブツ言いながら、試行錯誤しているようだった。毎日、意識だけはあるが、声も出せず、ただ男のしていることを眺めて過ごした。

 

 ある日、もう一人、男がやって来た。その時しばらく眠らされて、起きた時には、自分の身体が自由に動かせるようになった。そして、自分が機械人間になったのだと知った。やっぱり、あの時、自分は一度死んでしまったんだと。それでも、コードに繋がれることもなく、身体を自分の意志で動かせるようになったことは嬉しかった。母に会いたいと思った。けれど、一度死んだ自分が会いに行ったら、どうなるか分からない不安があった。それと、まだ、身体の具合はあまり良くなく、機械人間にした男がいないと、メンテナンスに困るらしかった。

 男の顔を毎日見ていて、その風貌が、どこか懐かしいと思った。髪が伸び、髭がうっすら生えていて、気が付かなかったけれど、その男は自分の父親だった。母の部屋には、若い頃の二人の写真がある。

 

 もう一人の男は、宮沢といって、機械人間を作る事には消極的だったみたいで、道徳に反するとか、神への冒涜だとか、とにかく、己を責めていた。そして、ある日、研究所から姿を消した。父が心配していたので探しに行くと、車が崖から転落していた。車のライトは点灯したままで、数人の人影が見えた。それから、車に下敷きにされた人がいると言うのが聞こえて、助けに行った。車の下敷きになっていたのは、宮沢と秋山という男だった。二人は瀕死の状態だったので、研究所へ運んだ。とにかく、二人の命を助けるために、父は彼らも機械人間にした。

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