第12話
「そうか、大変な思いをしたんだね。ところで、君の身体の事なんだけれどね。身体に埋め込まれていた原子炉は電気のバッテリーに交換したよ。毎日充電が必要になるけれど、
武田はそう言って、蒼に頭を下げた。
「僕は気にしていないから、謝らないでよ。電気にしてもらってよかったくらいだよ。核燃料って、簡単に手に入らないんでしょ? だから、電気にしてくれてありがとうって、お礼を言うよ」
蒼は可愛い笑顔で言った。武田はその笑顔に癒され、つられて笑顔になった。
「そうだ、僕が元気でいる事を、母さんに伝えてよ。随分会っていないから、会いたいなぁ。でも、一度死んだ僕が、生きているって知ったら、母さん動揺するんじゃないかな?」
蒼が言うと、
「大丈夫ですよ。
武田がそう答えた。
「やったー。母さんに会えるの? うれしいな。でも、九州からどれくらい時間がかかるんだろう?」
「蒼君。ここは九州だよ。そして美琴さんが住んでいる県内だからね。電車で一時間くらいだろう」
「本当? それはすごいね。眠っている間に、こんな遠くまで来ていたなんてね」
「蒼、あなたに会えるのを心待ちにしていたわ」
美琴はそう言うと、蒼を抱きしめた。
「母さん、僕が生きていて驚かないの?」
「ええ、もちろん驚いているわ。生前のあなたのまま、こんなに完ぺきに復元できたなんてね。パパはやっぱり、とても優秀な人」
「母さん、知っていたの? 父さんとは連絡を取っていたの?」
「いいえ。あれから、連絡はないわ。私から連絡も取れない。ヤキモキしていたのよ。でも、信じていたわ。彼ならきっとあなたを生き返らせてくれると。蒼は生きていると、彼はそう言って、あなたを連れて行ったの。彼には確信があった。だから、それを信じて待っていたのよ」
美琴はそう言って、蒼の顔を見つめた。それから、
「武田君、ありがとう」
武田の手を取って両手で握り感謝を述べた。
「いえ、僕は何も。金光教授と、助手を務めた片岡さんが蒼君を目覚めさせてくれたんです」
武田は謙遜したが、施設の設備は彼が居なければ操作方法は分からない。武田が大きく貢献していたことは、美琴にもよく分かっていた。感謝の言葉を言っても言い尽くせないほどの感情は、武田を思わず抱きしめていた。
「本当にありがとう」
美人で聡明な美琴に抱きしめられ、武田は照れて、どうしたらよいか、困惑しながらも、ふにゃりとした表情になった。
「はははっ。武田さん面白い顔になっているよ」
蒼が腹を抱えて笑った。
「蒼君、気を付けて。大わらいするなんて、傷口が開きますよ」
武田は冷静な気持ちに戻って、蒼を注意した。
「あら、大変。蒼、武田君の言うことを聞いて、安静にしていなさい」
美琴からも注意を受けると、蒼は笑うのをやめて、
「はーい」
と可愛い笑顔で言った。
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