第6話 始動
「何これ」
起きると何千という狼が俺に向かって頭を垂れていた。何だこれ。理解が追いつかん。まるで俺が王として崇められているようだ。
「見て分からぬか。お主が倒した狼たちがお前に服従を誓っているのだ。お前が起きる直前に構築されたぞ。」
構築……?何だそれ?
「お前の周りから再生して行ったのだ。大方"創造妖法"の応用だろうが……数千体も構築するとは思わなかった。我の権能まではいかないが人間のできる所業ではない。
お主……『成ったな』」
成った?俺が何に成ったんだよ。
「自分で気づかぬか。
"
それは自分の妖術の資質と強さを表す。
赤の場合は打撃向きの特性があり、近接戦闘では例外を除いて随一の力を誇る。さらに身体に妖気を流すのが妖気の特性上簡単になり防御力や動きが通常より格段に上がる。全体の術師では赤の妖気をもつ術師が四割を占めている。
青の場合は使役系、つまりは式神使いの特性があり、他の色よりも使役できる量が多くて質が良い式神を使役できる。また妖術によっては意思疎通もできるらしい。ちなみに青の妖気をもつ術師は赤に次いで多く全体の約三割である。
次に緑の場合だが、この色は他とは違い間接的攻撃の特性を持っている。要するに"呪い"だ。他と比べて戦闘面では限定的になり、どちらかというと後方支援に近い。
この中で一般的なランク付けは対異形では赤>青>緑の順番であり、任務優先度の指標でもある。だが重宝されるのは緑の妖気をもつ術師であり、緑の妖気持ちと言う時点で民間の組織ではなく、国家機関としての死縷々士隊に入ることができる。これはほかの二つに対して約2割ほどしかいない。
しかしその中でも違った
・赤と青を混ぜ合わせた紫
・青と緑を混ぜ合わせた水晶
・赤と緑を混ぜ合わせた黄
の三つのどれかに分類される。
多色持ちは一見すると強そうだがそれは一握りの術師のみが才能を開花させる。
なぜなら多色持ちは二つ以上の妖気操作を必要とし、必然的に技量も並の術師の二倍はないとまともな術師にはなれない。そのため発見された当初は差別の対象となり"無能の色"として馬鹿にされてきた。
しかし、世界最強の名を冠する術師が多色持ちであり、3つの呪力の特性を使いこなすため、今では羨望の目で見られることも出てきていた。
ちなみに俺の色は黄色であり、黄色は戦闘面で理論的に一番強い組み合わせと言われていたので俺は小さい頃から最強に憧れ、周りからの期待に応えるように訓練を続けていた。
まああいつに負けたせいで見向きもされなくなったが。
___話がそれた。つまり俺の妖気の色は黄色だったわけだが、今は墨汁のようなどす黒い色になっている。この黒い妖気の特性は何なのだろうか。明らかに異質な妖気。クロ丸の妖気に若干似てるが何かが違う気がする。
俺が考え込んでいるとアヌビスが説明してくれた。
「先の妖気の解放で禍々しい異形を出していたであろう?あの異形の妖気とそこの黒い影とお前の妖気が全部混ざった結果にできた"副産物"だ。怨念と恐怖を顕現したような妖気だな。」
「"副産物"ってことは他にもあるのか?」
俺が聞くとアヌビスが呆れたように返す。
「己の変化すら感じ取れんのか。お前の妖気をほかの妖気と混ぜ合わせたことで、身体外での妖気操作が感覚的にできるようになっているはずだ。」
外の妖気を操作するってなんだよ。そう思っていた時期が私にもありました。
やってみたら普通にできた。本当に呼吸するのと変わらない感覚。体内の妖気と外の妖気を同化したおかげか外の妖気も操作できるようになっている。
(これは目から鱗だな)
『妖気は頭で回せ。妖気切れは命取りだ。外の妖気は毒であり還元できない。』
妖気の前提が崩壊する。術師達が聞いたら気絶するだろう。
今では俺は妖気を感覚的に操作でき、外の妖気を操作して自身に還元できるため妖気切れがない。
自分の成長に感慨に
「さっさと服を着ろ。見苦しくてかなわん。」
自分の服装に目を向ける。
上半身は服を着ていなくて身体の至る所に傷痕があり、下半身は返り血で緑から黒くなったジャージだ。確かにこれは側から見たらやばい奴だろう。
創造妖法はさっきの妖気操作で感覚を掴んだ。
Tシャツを想像し、体の周りに妖気を集中させる。
「難しい……」
何度やっても途中で妖気が霧散してしまう。何がいけないんだろうか。アビヌの方を見る。
「……はぁ、最初から全て構築するのは面倒臭い。"依代"を使って作れ。」
(依代か……。)
川の方を見る。そういえば
アヌビスは取ってきた皮を見た途端嫌な顔をした。
「これは我の皮ではないか。なんと不敬なことをするのだ。」
「これしかなかったんだよ。もうお前じゃないんだから我慢しろ。」
隣でなんか言ってる奴はほっといて皮を正面に持ち、妖気で囲みながら構築していく。段々と黒い水見たいのが皮に染みてきて、数秒後には皮が黒い水で覆われた。
そこからTシャツを想像……やっぱパーカーにするか。出来るだけ肌の露出も無くしたい。そう思い家にあったパーカーを想像すると、段々と黒い水が動き始めてパーカーの形を形成していく。
「できた!!」
黒い水が布に変化すると手に持っていた皮が黒いパーカーになった。成功に純粋に喜びながらパーカーを着る。そのあと同じようにズボンも新しく構築した。
「で、こいつらどうするか……。」
「あの影の中にしまえ。多分出来る。」
言われた通り心で念じると狼達は一斉に黒い液体化し地面に溶けていった。確かに無数の魂の繋がりを感じる。
「なんでお前が知ってんだ?」
純粋に思ったことを聞く。
「なんとなくだ……。出来るのではないかという推測だ。それ以外に意味はない。」
曖昧な返事だな。最後をやけに強調してたし。
俺は不審に思いながらも話を続ける。
「なあ、ところでここから出る方法はあれ以外ないのか?」
「ない。あれが一番確実だ。」
『あれ』とはタルタロスを倒し、権能を奪うこと。他の三つは空想に等しい。
《深淵の神》と戦うのは死ぬほど気が進まないがやるしかない。
「アヌビス俺はどうすればいい?」
「決意ができたか…。お前には同じことを繰り返してもらう。」
「どんなことだ?」
「殺戮だ。」
は?もっかい言って。
「奈落にいる者たちを殺して自分の配下にしろ。我が獣の姿で彷徨っている間に確認できたことがある。この奈落にはいくつかの
ここから北西の方向にある《
北東にある《タイタン族》
東にある《
南東にある《
この四つだ。どれも手強い奴しかいないが、配下にした分強力な手駒となる。全て手に入れたら、西と南を支配するタルタロスの《深淵の神域》に入って白兵戦を行う。4つ全てを配下に置いても数は負けているが個々の強力な突破力で五分の戦いができるはずだ。それまでは軍勢を集めよ。
今行くべきなのは《喰狼群》だ。ここから一番近く、数は多いが今のお前とお前の配下なら倒せる。」
かなり情報量が多いが要約すると軍勢を拡大しろってことか。手持ちの配下は約2200体だが相手は?
「約6000だ。」
多すぎじゃないか?三倍の戦力比で勝てるのかよ。
「前は8000はいたが今の戦いで2000戦力が減ったのだ。1対8000よりいいであろう。」
一人でも戦わせるつもりだったのかよ。鬼畜かお前は。しかし、俺が3000体
俺の狼達で3000体いけなくもないか……。って考えてる時点で末期。もう感覚が麻痺している。
「……行くか。」
考えていてもしょうがない。こんな地獄みたいなところから早く出たい。俺は南東の《喰狼群》に向かって歩き始めた。アヌビスはクロ丸の中に入り休んでいる。
父はこんな時どうするだろうか?絶望的状況でも諦めなかった父。今までは背中を見て追ってきた。
今は答えてくれることはない。己のみで強くなるしかない。俺はどこまで強さを求める道を歩き続けられるのだろうか。
今はまだ分からないが
____最期までもがいてやる。
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次回説明が足りなかったところの解説、補足挟みます。本編の更新は遅れますがよろしくお願いしますm(_ _)m。
誤字脱字があったらコメントで教えてください。
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